東京大学(東大)は、チャンドラX線衛星と欧州南天天文台のVLT望遠鏡を用いた観測により、銀河同士の重力相互作用が超巨大ブラックホールの成長を促進させていることを明らかにした。同成果は、東京大学数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe:IPMU)のジョン・シルバーマン博士と、国際チームCOSMOSとの連携によるもので、米国雑誌 The Astrophysical Journal」に掲載される予定となっている。

多くの銀河の中心には超巨大ブラックホールがあり、中には太陽の十億倍の重さのものもあることが知られているが、そのようなブラックホールがどのようにして、そこまで成長したのかはよく分かっていない。現在、さまざまな研究から、いくつかの手がかりはつかめており、例えば、超巨大ブラックホールは非常に重い銀河に偏って存在し、ブラックホール質量はその銀河の中心部(バルジ)の重さと関係していることがわかっている。その銀河のバルジは他の銀河との衝突合体を繰り返して成長すると考えられ、そのような衝突合体の過程で物質が銀河中心に流れ込み、超巨大ブラックホールを成長させたのではないかという考えがある。

これを検証する簡単な方法として、超巨大ブラックホールが孤立した銀河と比べて、合体途中にいる銀河により多く存在しているかを調べることが考えられる。これは一見すると簡単なことのように思えるが、この検証の実現が天文学者を長い間悩ませる要因となってきた。他の銀河との重力相互作用は、銀河の形を歪めるが、活発に成長している超巨大ブラックホールから放たれる非常に明るい光のせいで、銀河自体を調べることが難しく、銀河の歪みが他の銀河との相互作用によるものなのかをはっきりさせにくいためだ。

今回、国際研究チームCOSMOSでは、銀河の形が相互作用で歪んでいるか、といった情報を一切必要としない検証方法を試みた。具体的には、銀河のすぐ近くに別の銀河があれば、それらの銀河同士が相互作用をしている可能性が高いと仮定し、実に2万個の銀河までの正確な距離を欧州南天天文台のVLT望遠鏡を用いて測定し、銀河のすぐ近くにもう1つの銀河がいる、「銀河ペア」を探索、それらの銀河を孤立した銀河と比べることで、成長している超巨大ブラックホールが、重力相互作用をしている銀河で多いか否かを調査した。なお、活発な超巨大ブラックホールは、ブラックホール周辺の物質が高温になりかつ高速で運動するため、X線が放出されることから、NASAのチャンドラX線望遠鏡によるX線観測で探索を行った。

COSMOSサーベイの2つの銀河ペアの例(画像提供:チャンドラX線センター。出所:IPMU Webサイト)。ハッブル宇宙望遠鏡で得られた画像にX線の強さを紫色で示している

この結果、銀河ペアの方が、孤立した銀河と比べ、成長している超巨大ブラックホールをおよそ2倍の確率で持っていることを発見した。これは銀河同士の重力相互作用がブラックホールの成長を促進していることを示唆するほか、このような相互作用の頻度を考慮に入れて解析した結果、およそ20%のブラックホールの質量成長を相互作用が担っていることが判明した。すなわち、重力相互作用以外の物理機構が大多数の超巨大ブラックホールの成長を牽引していることになり、この発見は、銀河と超巨大ブラックホールが同時に進化をしていく「共進化」のさらなる証拠をもたらすものとなる。

しかし、今回の研究では銀河が最終的に合体する現場は観測できておらず、シルバーマン博士などの研究グループでは、その最後の瞬間を解明することが、今後の大きな課題になると説明している。