慶應義塾大学は10月20日、肺がん治療薬「イレッサ」が副作用として「肺線維症」を起こす仕組みを解明したことを発表した。その治療薬となる可能性が高い医薬品も合わせて確認されたとしている。研究は慶應義塾大学薬学部の水島徹教授らによるもので、成果は米科学雑誌「PLoS ONE」に10月20日に掲載された。
抗がん剤や抗リウマチ薬の副作用である、肺が繊維化してしまうことで呼吸機能が低下してしまう「薬剤性肺線維症」。その死亡率は肺がんよりも高く、臨床現場で大きな問題となっている。特に日本では欧米に比べてこの副作用の発生頻度が高く、その解決は急務とされている次第だ。薬剤性肺線維症の発生確率は、一例として、アストラゼネカが販売するイレッサを使用した場合、6.8%に達し、その内の40%が死亡しているという。
しかし、イレッサを含めた医薬品がなぜ肺線維症を起こすのかはまったくわかっておらず、治療法が確立されていないのが現状だ。
今回、水島教授らは、イレッサのヒト細胞に対する効果を詳細に解析。結果、細胞内の「熱ショックタンパク質70」(HSP70)の量をイレッサが減らすことを発見した。以前、水島教授らはHSP70が肺の繊維化を抑えることも報告している。
またマウスでの実験では、イレッサ依存に肺の繊維化を起こすことに成功し、この繊維化がHSP70の現象により怒っていることも改めて証明した。さらに、HSP70を増やす作用が知られてているエーザイが販売している胃薬「セルベックス」を用いて、イレッサ依存の肺が繊維化してしまうことの抑制にも成功している。
以上の成果は、これまで謎とされてきたイレッサによる肺線維症副作用の発症機構を明らかにしただけでなく、その治療法を示唆した点においても重要とされた。セルベックスは認可されている医薬品であることから、この成果が速やかに臨床応用されることは期待できるとしている。