村田製作所は10月20日、京都大学(京大) 大学院エネルギー科学研究科の中嶋一雄教授と共同で、赤外線透過用単結晶レンズの低温プレス加工方法、およびその加工装置を開発したことを発表した。
村田製作所では、テラヘルツ関連、フェムト秒レーザー関連、環境センサ関連の研究開発を行っており、その一環として、赤外線カメラレンズなどの素材となる赤外線透過材料シリコン、ゲルマニウム単結晶および多結晶の加工法の研究開発を行っていた。
従来、ゲルマニウム単結晶は硬く脆いため室温で力を加えると劈開(へきかい)し、プレスによる加工は不可能とされ、研磨加工されてきた。そのような中、中嶋教授の研究チームは、材料の融点に近い高温で加圧すれば結晶構造を維持しながらプレス加工ができることを発見、2011年9月発行の「Applied Physics Express(APEX)」(オンライン版)にその成果が掲載されたほか、現在も実用化に向けた研究を継続して進めている。
しかし、融点直下のシリコン1,400℃、ゲルマニウム900℃といった高温では、加圧機構が複雑になることや型材料の反応防止策が必要なことなどの課題もあり、今回、村田製作所が、保有する低温化技術(放電プラズマ焼結法)を同技術に適用することで、シリコン700℃台、ゲルマニウム500℃台の実用温度域でプレス加工することに成功した。
これらの温度は、普及しているガラスレンズ成形機の処理温度に近く、加工機構や型材料、反応防止膜などの既存技術がそのまま使用できるため、ガラス成形に用いられている既存の型材料をそのまま使用して非球面レンズが成形できるため、ナノインプリントなどへの応用やコスト面での優位性が期待できるという。
また、プレス加工条件により、シリコン、ゲルマニウムの透過特性について波長依存性を付与することができ、さらに低温アニール処理で初期透過特性に戻すことも可能だという。
ただし、低温化技術適用時の変形メカニズムの解明が必要で、今後もそうした研究を中嶋教授が担当していくほか、設備設計上の制約で適用材料厚みが2mm以下にできない問題があるため、その問題の解決が可能な機構の開発も進めていくとしている。
なお、村田製作所では今後、研究開発成果を公開し、革新的な商品やビジネスモデルを生み出す「オープンイノベーション」の実現に向け、他企業との協業も検討していくとしている。