東京大学、理化学研究所(理研)、科学技術振興機構(JST)で形成される研究グループは、インコがリズムに合わせて運動できることを確認したと共同で発表した。リズムを取る行動と発声模倣能力に関連があることも合わせて示唆している。同成果は、東京大学大学院総合文化研究科の岡ノ谷一夫教授と、JST戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「岡ノ谷情動情報プロジェクト」の関義正研究員らによるもので、10月17日(英国時間)にNature Publishingグループのオンラインジャーナル「Scientific Reports」で公開された。

多くの動物の運動にもリズミカルなパターンがあり、中にはリズミカルなダンスそのものを披露するものもいる。しかし、動物たちはもともと持っているリズムのパターン以外に、「外部から与えられる」リズムに合わせて運動する能力を持っているわけではない。

「音楽に合わせてダンスをする」動物のビデオを解析すると、音楽と運動の同調が認められた動物は、オウムの仲間数種とゾウ1種のみで、イヌやウマ、サルなどでは確認ができなかった。その結果によれば、ヒトにとって容易な外から与えられた「リズムに合わせて運動する」ことが、動物一般にとっては当たり前ではないことがわかったのである。

リズムに合わせて運動できる、ヒト・オウムの仲間・ゾウの共通点は「発声を模倣する」という能力。この「発声の模倣」は、「新たな発声パターンを獲得する能力」と言い換えることも可能だ。

これまでに、『リズムに合わせて運動する能力が「新たな発声パターンを獲得する能力」の副産物として備わったのではないか』とする仮説も挙げられてきたが、その裏付けとなる研究は、前述のビデオ解析によるいくつかの事例報告に過ぎなかった。

しかしこの仮説は、ヒトが文化や世代を超え、当たり前のように行ってきた「音楽に合わせて踊ること」が、実は言語能力と密接に関連していることを示唆してもいる。この与えられたリズムを予測してそれに合わせる能力に関する研究として、ヒトにおいてはリズムとの同期タッピング(机などを指先で叩く)実験が多数行われてきたが、動物によるリズムに同調したタッピング行動は確認されていなかった。例えば、サルでの類似した実験では、サルは提示される光や音に対し、急いで反応しているだけで刺激を予想しての反応は認められなかったというわけである。

そこで今回の研究では、オウムの仲間の1種であるセキセイインコ(画像1)の一群を用いて、外部から与えられる多様なテンポのリズムと同期した運動が生じるかどうか検討する実験を行った。インコたちは、エサを報酬として用いる学習方法の1種である「オペラント条件付け」(生物個体が自発的に行った行動の後に、環境変化に応じて、自発頻度が変化する手法)を用いて、一定テンポで点滅するLEDをその点滅に合わせてつつくよう訓練した。

画像1。オウムの仲間の一種であるセキセイインコが実験に使われた

この点滅にはピッという電子音が伴っており、インコは光と音をテンポの手がかりとしてLEDをつつくことができる仕組みだ(これらの光や音を「刺激」と呼ぶ)。インコたちはエサをもらうため、6回連続でつつきを成功させる必要があるのだが、どのインコも皆、連続つつきを成功させてエサをもらうことに成功している(画像2・3)。

画像2。セキセイインコのつつき実験。(a)一定テンポで点滅する光(LED)を6回連続でつつくと、(b)報酬としてインコはエサをもらえる。(c)刺激提示とつつくタイミングとのズレを測ったところ、かなりの割合で負の方向へのわずかなズレが見られた。これはヒトの実験でも観察される現象であり、このことから、インコが周期的な刺激提示パターンに基づき、次の刺激の提示タイミングを予測してつつき運動をしていたことが判明した

画像3。つつきながらタイミングのズレを補正していくのを示したグラフ。遅いテンポで刺激を提示する条件では、6回連続つつきの前半には早めにつつきがちだが、後半にはそのズレが小さくなっていく。これは、インコがリアルタイムに刺激のリズムをモニターしながら、つつくタイミングを補正していくことを示している

しかし、そのつつきのタイミングを分析した結果、インコたちは刺激が出てから急いで突いているわけではなく、刺激の出現を予期しており、つつきタイミングには一定のパターンがあることが判明した(画像4)。

画像4。つつくタイミングの時間分布。(左図)時間の経過を円の角度で表したもの。「刺激提示開始」を0度として反時計まわりで時間が進むとする。1周が780msを表す。刺激の提示の前後には一定の許容範囲があり、それも含め、この円の範囲であればすべての角度(つまり、全タイミング)でのつつきが成功となる。「推定反応時間」は、刺激がいつ出現するかを予測できない条件でのつつき実験の結果をもとに得た数値である。すなわち、刺激が出た直後に、インコが急いでつついたときに生じるタイムラグの測定値である(右図)。8個の図は、それぞれのインコについて、キーつつきが偏在していた時間範囲を赤で示し、左図上に重ねたもの。インコが適当につついた結果、偶然成功したのであればつつきタイミングは円全体にばらける。しかし、すべてのインコにおいて分布には偏りがあり、つつきタイミングに一定のパターンがあったことがわかる。もしインコが、刺激の提示後に急いでつついていたとすれば、つつきタイミングは「推定反応時間」周辺に分布するはずである。しかし、上の条件では、オスA、D、メスB、Dにおいては「刺激提示開始」周辺に分布している。つまり、次に出現する刺激提示開始のタイミングを予測してつついていたことがわかる。なお、本研究のような周期的な運動を評価するためには、円を用いることが都合がよいため、統計的な処理はサーキュラー・スタティスティクス(Circular statistics)を用いた

刺激の間隔については、450、600、900、1200、1500、1800msと複数の条件で試みられたが、インコたちはこれらすべての条件で正確につつくことに成功している。また、刺激を音だけにした条件でも同様にうまくつついている。

今回の成果により、種としてのセキセイインコは外部から与えられるリズムに同調してキーをつつく運動ができるということが確認された。これは動物によるリズムに同調したタッピング行動として世界で初めての公式な報告である。

また今回の結果は、前述の『リズムに合わせて運動する能力が「新たな発声パターンを獲得する能力」の副産物として備わったのではないか』とする仮説を裏付けるものとなった。同時に、ヒトが文化や世代を超え、当たり前のように行ってきた、「音楽に合わせて踊ること」が、実は言語能力と密接に関連していることを示唆することにもなった形だ。

ヒトはリズムに乗って、ダンスそのほかの行動を通じて、仲間と感情を共有してきた。今回の研究は、そのようなことを可能にするのが何なのか、その生物学的な基盤を探る1つの成果としても位置付けることが可能だ。

また、ヒトの場合、自分の意志とは無関係に身体が勝手に音楽に同調してしまう、「つられて動く」というような現象が見られる。動物のリズム同調が、これと比較しえるような強いものなのかどうなのかを、研究グループでは次の実験で検討したいとしている。

さらに、リズムに合わせて運動するための神経機構の研究へと発展させたいとも考えているとした。例えば、新たな発声パターンを獲得できるトリにおいては、さえずりに関わる神経系の操作により、さえずりのスピードが速くなったり遅くなったりすることがわかっているが、同様の操作が今回の研究で見られたようなリズミカルな運動の制御にも影響するのかを検討し、発声パターンの獲得能力とリズミカルな運動の関連について、神経メカニズムの観点からも明らかにしていくとしている。