Appleの元CEO、Steve Jobs氏が逝去して2週間になろうとしているが、いまだにJobs氏の功績を称える声が鳴り止まない。そんななか、Business Insiderが経営の視点からApple出身でPosterousの共同設立者であるSachin Agarwal氏の話を紹介している。「IT企業ではエンジニアが経営の中心であるべき」と同氏。このマインドは「iPhone」「iPad」とヒット製品を生むAppleの成功に大きく関係あると言えそうだ。
Agarwal氏は、Appleで製品デザイン担当として6年間勤務した。その後、2008年にPosterousを立ち上げている。Posterousは電子メールでブログに投稿できるブログプラットフォームサービスで、日本でもじわじわと注目されている。そんな同氏がJobs氏の元部下として働いたことで得た教訓とは何だろうか?
(1)IT企業の中心は「マネジャー」ではなく「エンジニア」
Appleは時価総額で世界一となるほどの大企業であり、MBA(経営管理学修士)の本場の米国企業でありながら、MBA取得者がウジャウジャいる企業ではないようだ。同氏によると、製品側の人間が管理職を独占しているのではなく、マネジャーの多くはエンジニア出身だという。「プロジェクトチームは少人数で、エンジニアが引っ張っている」と同氏。プロジェクトを統括する人間が技術を理解しているので、チームメンバーとマネージャーとが理解し合える――「これこそ、プロジェクトとその成功にとって重要なことだ」と同氏は述べている。
(2)マネジャーとスタッフが尊敬しあう社風
上司が自分と同じ分野出身であれば、部下はその上司を尊敬する。Apple時代の同氏の上司もエンジニア出身だったため、「『上司を驚かせたい』という思いで一生懸命働いていた」という。少人数のプロジェクトでマネジャーへの尊敬があれば、チームの結束は固くなる。これは「Appleの成功の秘密の1つ」と同氏は分析している。
(3)社員の自由度を高めて製品改善を奨励
Appleでは、スタッフが自社製品を使用中に問題を発見した時、上司の承認なしに修正できるという。プロジェクトはすべて長期的な目標を持って運営されているが、それ以上に、「エンジニアが個人的に出す意見こそが継続的な製品改善につながっている」と同氏は見ている。
(4)課題を与えることで社員を成長させる
Apple時代、常に自分の能力を少し上回る課題を上司から与えられていたという同氏、これは「学習のチャンスとなった」と振り返っている。マネジメント業務としては、雇用後6週間ごろからプロジェクト管理を任されたという。
「Appleは社員の人材開発に優れており、社内で成長するのに必要なスキルを与えてくれる企業だ」と同氏は述べている。
(5)だらだらと開発を続けず締め切りを厳守
Appleは期限を必ず守る社風があるという。一方で、「品質という点では、"Appleクオリティ"を満たさないものは絶対出荷しない(というポリシーがある)」と同氏。そのため、期限に間に合わなかったためにカットされたプロジェクトもあったようだ。「ベンチャー企業に多いのが、開発に開発を重ねるだけでなかなかローンチしないこと」とAgarwal氏は言う。「それよりも出荷することが大事。期限を守り、これを繰り返すこと」と同氏。
(6)ライバルと機能で競争する戦略は避けるべし
他社との競合は避けられないが、「Appleが最もフォーカスしていたのは自社製品の目標設定とそれを達成すること」と同氏。Appleのアプローチは、「競合製品と同じ土俵で、機能を加えて勝負すること」ではないという。
他社が何をやっているのかではなく、自社の目標にフォーカスし、現在よりもいいものを作る方向に持っていく、そのためには社員が社風を理解していることが大切だという。
(7)自社製品にパッションを持つ人で固める
「Appleの社員は皆Appleで働きたい人ばかり」と同氏。自身もAppleのファンで、忠誠心と意欲を生む原因になっていたと自己分析している。クレイジーなぐらい自社製品のファンであること、これは社員を雇用するプロセスにおいて重要な要素にしたい。
(8)ワークライフ・バランスは重要である
Appleはワークライフ・バランスの大切さを社員に強調しているそうだ。社員の健康に配慮してヘルスケアを手厚くし、感謝祭やクリスマスなどの休みも多く取れるという。こうした配慮を、社員も快く思っていたようだ。
「Appleで働くことが好きで、一生懸命働く。だが、仕事が終われば生活を楽しむべき――こうしたモットーがよしとされていた」と、同氏は述べている。
こうした教訓を挙げながら、Business InsiderはAppleが成長と成功を続けられる理由を「大きなベンチャー企業だから」とする。プロジェクト内に官僚主義がはびこっていないため、社員はパッションを維持し、能力開発を続ける。働く場所として素晴らしい環境を提供しているので、リテンションも高くなる。
いかがだろうか? Agarwal氏の教訓はIT企業向けだが、異なる業種の企業においても参考にできる教訓がありそうだ。