10月9日、繊維の街として栄えてきた大阪市船場(せんば)で「第2回ロボットファッションコンテスト」が開催された。ホビーロボットビルダーとデザイナーの卵がコラボレーションする珍しい試みのコンテストで、総勢15体のロボットが出場。総合優勝は、クレオパトラをイメージした美女ロボットを制作した「クレオパトラゴールドチーム(上田安子服飾専門学校)」が獲得した(画像1)。

画像1。総合優勝に輝いたクレオパトラゴールドチームのロボット。チーム名の通り、クレオパトラをイメージした美女ロボット

ファッションコンテストだけあって、普通のロボットコンテストとは真逆の、圧倒的に女子の参加者が多いことが特徴だ(画像2)。それもオシャレで可愛い女の子ばかりなのである(画像3)。筆者は東西各地のロボットコンテストを多数観戦しているが、明らかに参加者のキャラクタが違う。

画像2。コンテスト前にロボットと参加者で記念撮影。ロボットコンテストとは思えない女子率

画像3。ロボットのパフォーマンスをステージ横で心配そうに見守るフィナンシェチーム(大阪文化服装学院)

参加者を見た瞬間、「ドレスはともかく、ロボットは誰が作ったの?」という疑問は誰もが持つだろう。そもそも、なぜ彼女たちがロボットでファッションコンテストをしているのか?

コンテストを実施した船場は、大阪のほぼ中央に位置し繊維問屋が集積し古くから繊維の街として栄えてきた。歴史ある街・船場をアピールする「船場まつり」を企画した際に、世界中のどこでもやっていないことをやろうじゃないか! と発案されたのが、「船場ロボットファッションコンテスト」だ。新しいモノ好きでおもろいモノ好きな大阪らしい、ユニークな着眼点だ。

第1回から審査員を務めるファッションデザイナーのコシノヒロコ氏は、最初に構想を聞いた時は「ロボットに服を着せてどうするの?」と怪訝な反応だったそうだ。それが、実際に目の前でロボットが動くのを見た瞬間「面白い!」と目を輝かせたという。

そこで、ファッション専門学校の学生たちがデザインを担当し、ホビーロボットユーザーが素体を提供する異色のコンテストが実現したわけだ。もちろん、個人で参加しているホビーロボットビルダーもいる。

コンテストは1分間のショー形式で行われ、曲に合わせてパフォーマンスを行う。規定演技はないので、歌、踊り、曲芸、手品など、何を披露しても自由だ。

コンテストの審査はステージ上のショーと、審査員がドレスを間近で見て、衣装のデザインや仕上がりなど詳しく審査する近接審査の2点で行われ、ロボットの性能とデザイン両面で総合グランプリを決定する(画像4)。

画像4。ロボットの構造やドレスを1体1体間近で審査する吉川真史氏(コシノ事務所執行役クリエイティブディレクター)と松原仁氏(公立はこだて未来大学システム情報科学部教授)

賞金15万円の総合グランプリに輝いたのは、前述の通りクレオパトラゴールドチーム。コンセプトは「現代的なスフインクス」。クレオパトラをイメージした美女ロボットが、氷川きよしの「虹色のバイヨン」のイントロにあわせて踊るという無国籍風が見事に調和していた。

実は、出場したロボットのほとんどが、音楽に合わせてダンスを踊るものの、事前にBGMの編集ができておらず曲の途中で、ロボットをオペレータが停止してパフォーマンスを終了していた。せっかくショー形式を取っているのに、キメポーズがないままのダンスはしまらない。「おぉっ」と思わせるものがあるのに、最後が決まらないと拍手も盛り上がらないのだ。

そうした中で、クレオパトラゴールドはドレスもロボットのダンスも曲も、十分に練りこんだパフォーマンスで観客を魅了した。このチームの完成度が高い理由は、デザイナーとロボット製作者のコラボレーションがぴたりとハマったからだろう。

ロボット製作者の舞鈴堂さんは、第1回目のコンテストが終了後すぐに、新作ロボット「音叉(おんさ)」の設計を開始。今年の7月にデザイナーとコラボチームを組む時点では、まだロボットは完成していなかったため設計図と、前回出場ロボットの剣姫を持参してミーティングに挑んだそうだ。

一方デザイナーの舩登美帆さんは、昨年のコンテストを観客席から見ていた。ミーティングで剣姫を見た時、「去年、1番気に入ったロボット!」とチームを組むことを申し出たという。

舞鈴堂さんは「自分のイメージで作るとロボットのキャラクタが固定されてしまう」と、デザインやコンセプトは舩登さんに一任。彼女の要望に応じて、モーション作りやBGMの編集に専念したそうだ。

こうて役割分担の徹底と互いの専門分野をうまくジョイントできた結果、見事なパフォーマンスが生まれたわけだ(画像5~7)。

画像5。上半身をしなやかにそらし音楽に乗って優雅に踊る「音叉」

画像6。ロボットのメイクも舩登さんが担当した。ロボットの名前「音叉」は、オートマターとのダブル・ミーニング

画像7。ドレスの細かな装飾が美しい。背中の編み上げ紐や、腕のバンドでドレスのシルエットを調えている。制作材料費は、5000円

それでは、コンテストに出場したロボットたちを紹介。ファッションコンテストなので、正統派ともいえる人形型ロボットが多かった(画像8~12)。

画像8。atelier シルクハットチームは、ビスクドールのような雰囲気のロボットに、ロリータ風ドレスを着せた。いまにも野原に向かって駆け出していきそうな演出だった(上田安子服飾専門学校)

画像9。エントリー名「ヴァニラ」のテーマは不調和音。ブライスのような大きな目が独特の可愛らしさをかもし出している。これは、オリジナルロボットにサイズが合う市販ドレスを着せている

画像10。ブラッティナッキィーチーム(上田安子服飾専門学校)は白鳥の湖の黒鳥をモチーフにバレリーナロボットを制作。ダークでサイバーなプリマドンナが、オープニングで見事な180度開脚の姿勢から垂直に立ち上がった

画像11。M-ROBチーム(マロニエファッションデザイン専門学校)は近未来の芸者をテーマにした。和服をモチーフにした衣装は、LEDと違和感がないように素材やカラーを厳選したという。青色LEDが儚く美しい印象を与える

画像12。jewelry fishチーム(マロニエファッションデザイン専門学校)は、あえてパンツに透ける素材を用い、ロボットの金属フレームもファッションに取り入れた

素体がロボットなだけに、モデルが人間型をしているとは限らない。ユニークな発想のモデルロボットたちもいた(画像13~16)。

画像13・14。レオパードチーム(上田安子服飾専門学校)は、「ロボットにも、人間のような感情がある」と衣装で表現。真っ白い清純なドレスの内側は、濃い紫の花がびっしりと縫いとめられている。心の奥ヒダに込められた、彼氏(?)に捨てられたロボットの悲しみを音楽に合わせて表現した

画像15。兎角(とかく)チームのコンセプトはレインボー。両サイドと中央部分のラインと、色の配置でロボットがスリムに見えるように工夫している

画像16。ペコチームは、大空を華麗に飛びたいと夢をみるカラフルみのむしをテーマにした。ドレスの立体的な装飾が女の子らしく、演技も可愛かった

ファッションには、時代の空気が反映されるものだが、ドレスをまとうのがロボットであっても、その点は同じだ。

COCOROチーム(大阪文化服装学院)は、東日本大震災以降感じることが増えた「人の心」をロボットにも持たせたいという願いを込めて、ドレスをデザインしたという。ステージに登場した時、全身をすっぽりと白いマントに包んでいるロボットが、マントを脱ぎ捨てると燃えるように赤いドレスで登場する。燃えたぎる命の炎を表す赤は、「心」の字を描いている(画像17)。

JSKチーム(大阪文化服装学院)は、本来は戦闘に使われた鎧を和洋融合させることで世界との繋がりと調和を表現した。震災後、海外からたくさんの支援を受けた思いを込めたそうだ(画像18)。

画像17。COCOROチームのテーマは、ずばり「心」。スリムなボディを活かしたミニドレスが可愛いらしい

画像18。JSKチームは、西洋と東洋の鎧をミックスさせた動きやすい次世代鎧をデザインした。キレのあるパフォーマンスがカッコよかった

参加者にコンテストの感想を求めると、「異業種間のコラボレーションの難しさ」を指摘する声が多かった。

単に業界の違いだけではなく、年齢差のギャップもあったようだ。というのは、ドレス制作を担当するのが、ファッションデザイナーの卵である学生たちであるのに対し、ロボット製作者はほぼ全員が社会人だからだ。学生と社会人のコラボは、生活ペースが違うため、連絡を密に取るのも難しかったという。

ロボット製作者からは、「学生ロボットビルダーが参加して彼女たちとコラボレーションしたら、もっと面白いショーになる」という意見もあった。

女子と共同でロボット作りを楽しめる面白い企画だと思うのだが、どうだろうか? 来年、若手ロボットビルダーの参加が増え、コンテストがいっそう盛り上がることを期待したい。

画像19。受賞者記念撮影。ファッション部門優秀賞(コシノヒロコ賞)はフィナンシェチーム(大阪文化服装学院)、ロボット部門優秀賞はM-ROB(マロニエファッションデザイン専門学校)が受賞した