2011年9月16日から21日の6日間に渡って、東京国際展示場(ビッグサイト)で「IGAS 2011(International Graphic Arts Show)」が開催された。ドイツの「Drupa」、英国の「IPEX」、米国の「PRINT」に並ぶアジア・オセアニア地域では最大となる印刷機材展とあって、日本国内はもちろん、中国や韓国など近隣諸国からの来場者も多く見受けられた。
今回のIGASでは、2010年に行われたIPEX、あるいは2008年のDrupaで発表されていたロール紙を用いた高速インクジェット印刷機の実機が多く出展されて来場者の注目を集めていたほか、今年後半から来年に掛けて発売が予定される製品も数多く登場。会期中の来場者は延べ7万人を越え、盛況のうちに終了した。
ここでは、会場で話題を集めた機種や参考出品のプロダクトを中心にIGAS2011を振り返ってみよう。
今回からSUICAやPASMOといったICカードによる入退場システムが導入された |
東日本大震災復興支援イベントのひとつとして展示された東日本報道写真ギャラリー。日本経済新聞社の写真部記者が撮影した写真約100点の展示とスライドショーが放映された |
モリサワ「TypeSquare」(参考出品)
モリサワはWebブラウザ表示に「モリサワフォント」が使用できる「TypeSquare」を発表。モリサワフォントをクラウドフォントとして使用可能なサービスで、Webサイトの閲覧者側にモリサワフォントがインストールされていなくても、Webブラウザ上で表示できる。会場内で聞いたところ、当面のスタート時点ではモリサワフォントだけの予定だが、先日子会社化したタイプバンクのフォントや欧文フォントなどもいずれはクラウドフォントとして提供したいとのこと。さらに、賛同するフォントメーカーがあればTypeSquare内で提携していきたいと話していた。サービス開始は2011年度内を予定。価格も現在検討中。
ナナオ「iPadエミュレーション用ソリューション」(参考出品)
ナナオは内蔵キャリブレーション機能を搭載した「Color Edge」シリーズを中心に展示。その中でも注目を集めたのはiPadなどタブレット端末のキャリブレーションを行ってプロファイルを作成するソフトウェア。別売りの測色器を使用してiPadやGaraxy Tabなどのディスプレイを測色してキャリブレーションを実行。完成したプロファイルは他のディスプレイでタブレット端末の色をエミュレーションする際に役立つので、たとえばiPad向けソフトウェアの開発などに活用できそうだ。
ローランド ディー. ジー.「VersaUV LEF-12」
UV-LEDインクジェットプリンターを軸にした展示内容となったローランド ディー.ジー.。函物や特殊印刷を施した書籍表紙のカンプ、また軟包装材への印字サンプル、伸縮するインクを使用したプラスチック剤やPET素材への印字サンプルなど多様な印刷物を見ることができた。
とくにVersaUVシリーズの中でも特徴的な「LEF-12」は、最大100ミリまでの高さを持つ立体物への直接印刷が可能なユニークなモデル。PET素材やABS、PVC、ポリカーボネートなどメディア対応力も高く、高低差2ミリまでであれば曲面にも印字可能。会場では、ゴルフボールの表面に直接印字するデモンストレーションで来場者の足を止めていた。
LEJ-640はフラットベッドタイプで厚紙(段ボール)などに直接印字できる |
「ECO-UV Sインク」(ストレッチインク)を使用すれば、立体物への印刷でもインクのひび割れも起こさず基材にピッタリと密着する |
LEF-12ではゴルフボールやスマートフォンケースなど厚み+曲面のある基材に直接印字できる。これには来場者もビックリ |
デスクトップフラットベッドモデルとして発売されたLEF-12。印刷面にニス引きやエンボス加工が施せるVersaUV 独自のグロスインクを標準搭載する。もちろん、高濃度の白インクにも対応 |
キヤノンマーケティングジャパン「Oce ColorSteam 3500」、「DreamLabo 5000」
2011年1月にOce社製業務用高速プリンターの販売を開始したキヤノンマーケティングジャパンは、IGAS2011の会場で「ColorStream 3500」をアジア初出展。また、業務用フォトプリンター「DreamLabo 5000」も同時に国内での初展示となった。「ColorStream 3500」はロール紙に対応する高速インクジェット印刷機で、シングルユニットでは毎分505(A4)ipm(image per minute)、2台目を追加すると倍の両面イメージを生産できるという。
一方のDreamLabo 5000は、キヤノン独自のプリントヘッド技術「FINE」を採用した7色染料インク搭載の業務用フォトプリンターで自動両面印刷も標準装備。新開発のラインヘッドにより高速な印刷が可能となっている。
富士ゼロックス「Color 1000 Press」
Color 1000 Pressにマットトナーが登場。新機種導入時には使用トナーを選ぶことができるようになった。このマットトナーは、トナー特有のぎらつきを抑え、従来トナーに比べて平滑度も高いことからよりオフセット印刷に近い仕上がりが得られる。従来トナーを使用しているユーザーでも保守サービスなどを通じて変更可能とのこと。また同時に、2011年7月に発表したばかりの業務用インクジェットプリンター「2800 Inkjet Color Continuous Feed Printing System」も出展された。これはフルカラー連続紙高速インクジェットプリンター。フルカラー印刷/両面で毎分200メートルという世界最高速を誇る。
薄紙(64g/m2)に印刷されたマットトナーの仕上がりをみると、トナー特有の盛り上がりもなくオフセット印刷の仕上がりに近い |
バリアブル印刷の例として展示された特殊なフィルムをかざすと数字が浮き出るという出力サンプル。他にクリアトナーのサンプルも多く見られた |
クリアトナーに加え、マットトナーもラインアップに加わったColor 1000 Press PX1000 Print Serverモデル |
富士フイルム グラフィックシステムズ「Jet Press 720」
「パッケージ、レーベル印刷分野」と「データプリント分野」という2つのゾーンに分けて商品を展示していた富士フイルムグラフィックシステムズ。デジタル印刷分野でデモンストレーションしていたのは「Jet Press720」だ。ここ数年の各国展示会で参考出品されてきた本機だが、いよいよ発売が開始されるとあって来場者の注目度も熱を帯びていた。また、インクジェットプルーファーの代名詞とも言える「プリモジェット」もソフトウェアを新しくして新登場。さらに新規参入となるパッケージソリューションでは「GRANPACS」というブランド名を打ち出し、フレキソCTP版やインクジェットプルーファーを展示した。
2008年に発表されて以来、今回のIGASで発売がようやく正式アナウンスされたJet Press 720 |
Jet Press 720に搭載されるインクジェットモジュール。ライン型インクヘットプリントヘッドで、解像度は1,200dpi |
リコー「RICOH Pro Cシリーズ」
「RICOH Pro C900」のリリースを機にデジタル印刷の世界に本格参入したリコーは、その後継機である「RICOH Pro C901/C901S」や「RICOH Pro C751EX/C651EX」を中心に紹介。さまざまな印刷サンプルや事例を紹介し、後発ながら多くの人を集めていた。また、プリンティングワークフローをサポートする新たなソリューション「TotalFlow」を発表。ジョブ管理・編集・設定ソリューションとして「TotalFlow MR」、印刷ジョブスケジューラーとして「Total Flow PM」を今秋以降リリース予定。また、RICOH Pro Cシリーズ向けに「ICCプロファイル作成サービス」(5万円/1件)、「カラーマッチング支援サービス」(20万円/1件)を紹介した。
プレゼンテーションに使用されたのは、6月に発売されたばかりのRICOH Pro C751EX |
「TotalFlow MR」ではジョブの面付けやテンプレートによる自動処理を画面を見ながら設定・実行できる |
コニカミノルタビジネスソリューションズ「bizhub PRESS C70hc」
「bizhub PRESS」ブランドを前面に押し出した展示を行ったコニカミノルタビジネスソリューションズ。「bizhub PRESS」は同社製品群の中でもグラフィック市場向けにリリースされているそうだ。メイン展示はbizhub PRESS C8000/C7000だが、ブース内で参考出品ながら注目を集めたのは「bizhub PRESS C70hc」。従来のCMYKトナーの色域を大きく超えるHigh Chromaトナーを搭載したモデルで、すでに海外では販売開始済み。日本国内では、写真市場や同人誌印刷向けに今年末にリリースされる予定。
bizhub PRESS C70hcは、bizhub PRESS C7000をベースに「High Chromaトナー」を搭載したモデル |
bizhub PRESS C70hcによる出力サンプル。高彩度トナーと言うだけあってその仕上がりは一般的なレーザープリンターとは一線を画すユニークなもの |
大日本スクリーン製造「Truepress JetSX」、「Digital UV Embossing System」
2010年のIPEXで発表された「Truepress JetSX」を出展。Bsサイズの枚葉プリンティングシステムで、本機で両面印刷にも対応した。印刷には新たに開発した「Truepress Ink」を採用することで、プレコートをせずに印刷本紙に印刷することが可能になった。最高解像度は1,440dpiを実現し、高精細な印字が可能となっている。また、イスラエルのSCODIX社と提携して販売するUVインクジェット方式デジタルエンボスシステム「Digital UV Embossing System」を同時に展示。印刷後の後加工としてUVクリアインキを使用したエンボス加工(インキの量を調節して疑似エンボス加工を行う)を紹介した。
高速インクジェット機によるデジタル印刷がいよいよ本格化!?
2008年に行われたDrupaでプリプレス機材メーカーを中心に数多く発表された高速インクジェット印刷機。この流れはIGASでも変わらず、来年以降の大きな潮流になっていくことが予想される。一方電子書籍や新デバイスであるタブレット端末に対する技術供与やサービスも目立ち、この2つがグラフィック業界における大きなトレンドであることが良く理解できる展示だった。
オフセット印刷はと言うと、UV印刷が花盛り。小森コーポレーションやハイデルベルグといった大手印刷機メーカーではUV印刷のスピード性を謳うプレゼンテーションや、特殊印刷による付加価値、さらには印刷業界が直面する省エネルギー対策、環境対策に対応するソリューションが多く展示され、デジタル印刷にはない特徴を打ち出していた。
本会期中で見られた新機種の多くは2011年後半から来年に掛けて発売される。とかく景気が伸びないと言われる昨今、印刷・製版業界は生き残りを視野に入れた設備投資を考えているところだろう。特に新技術を搭載した大型機械は今後の印刷市場において新たなシェアを獲得できるかどうか、大いに注目されるところだ。