ハイテク企業の多くが本社を構える米国、ここではIT企業に就職・転職したい人なら豊富な選択肢から就職先を絞ることが可能だ。ゲームやレジャーなどオリジナルな福利厚生施設やグルメも満足な社員食堂は当たり前の時代、就職先として望ましいのはどこか? Business Insiderが今年の「働きたいIT企業ランキング」を発表したが、意外にも(?)上位3社にあの企業は入っていなかった。

Business Insiderの「The 25 Best Tech Companies To Work For」は、同社が毎年、就職先という点から割り出しているハイテク企業ランキング。就職情報サイトのGlassdoor.comのデータを基に、過去1年のレビューや評価から上位25社が選ばれている。

今年の第1位は、保険業界向けソフトウェア企業のGuidewire Software。評価は4.4で、CEOのMarcus Ryu氏への支持は100%となった。従業員からは、「先進的なソフトウェアコンセプトを土台とした企業で、開発など多くの部門で雰囲気は大学院のコンピュータ科学学部のようだ」「開発部門は頭のよい人ばかりで、ワークライフバランスがよい」と、華やかな施設よりもチームの技術力を重視しての高評価となった。財務状態も健全。社員にはインセンティブとして譲渡制限付き自社株取得権(RSU)が付与されるため、IPOを目指すという共通目標も社内に生まれているようだ。

第2位は日本法人もあるセキュリティベンダー、Barracuda Networksだ。SymantecやMcAfeeなどをライバルに、スパムやウイルス対策技術を開発・提供している。「トレーニングの充実に多彩な社内イベントと、ワークライフバランスに評価が上がる一方、従業員の入れ替わりも激しいようだ」とBusiness Insiderはコメントしている。従業員のフィードバックの中には、「CEOと直接コミュニケーションできる」など、幹部や風通しのよさに対する満足の声も見られた。

第3位は、最近の技術トレンドを反映してクラウドコンピューティング企業の米RackSpaceがランクインした。創業は1998年、自ら「Rackers」と名乗るなど、社員の会社への忠誠心は高く、認められれば昇格も早いようだ。落ち着いた社風に満足の声もあるが、動きの激しい業界なだけに、「社内が常に変化している。人によってはフラストレーションを感じるかも」という従業員のコメントも。

トップ3は以上だ。今年は順位が大きく入れ替わっており、3社とも初登場となった。昨年を振り返ると、第1位がGoogle、第2位がAdobe Systems、第3位は技術コンサルティングとサービスのMITREだった。

昨年1位のGoogle、今年は第5位だった。評価は3.9と同じだが、CEOへの支持は、昨年の Eric Schmidt氏の97%から、今年のLarry Page氏は95%とダウン、成長に伴い求心力が薄れているようにも見える。官僚主義になったとの指摘もあるが、従業員からは「他の企業と比べるとそれほどでもない」とも。20代で創業したPage氏とSergey Brin氏も30代後半に差し掛かっている。以前があまりにもオープン、フランクすぎたのかもしれない。有名な20%ルールや社訓など、その後のハイテクベンチャーにいまだに大きな影響を与えている。

左から、 Eric Schmidt氏、Larry Page氏。Page氏は今年CEOに就任した

Adobeは今年、第18位とランクを下げた。評価も前年の3.9から今年は3.5に下がっている。仕事に関連していればAdobe製品はすべて無料で使えるのはうれしいが、従業員からは「開発はFlash/AIRに頼りすぎで、チームが目標に到達するのに足かせとなることもある」という報告も出ている。この従業員はトップレベルでのリーダーシップの欠如も指摘しているが、他の従業員は「人、研究開発、クリエイティブな製品と顧客に満足している」とも。会社が従業員のキャリア開発に投資していることへの評価も挙がっている。

さて、今や時価総額が世界一となった米Appleは、何位だったのだろうか? iPhoneにiPadと出す製品が次々とヒットする同社だが、働く場所としては昨年の第4位から第16位に順位を下げた。評価も3.8から3,6と下がっているが、カリスマCEOのSteve Jobs氏時代の支持が98%だったのに対し、新CEOのTim Cook氏は100%を記録した(Business Insiderでは、レビュー総数が20以下と少ない点を注意している)。

Appleの製品や哲学が好きなら残業も厭わない従業員が多いというが、顧客との接点となるApple Storeではストレスを感じる従業員も多いようだ。内部についても、「誰もが忙しく、プロフェッショナルな開発部門が二の次になることもある。上級幹部を外部から起用することが多いので、昇格はあまり望めない」とある従業員。

Apple、Googleと激しく競合する王者、米Microsoftは第22位。昨年11位からのダウンとなった。評価は3.4で昨年の3.6から下がったが、これ以上に気になるのが、CEOのSteve Ballmer氏への支持だ。昨年の52%から今年は35%と大きく低下している。従業員からは「自分が勤務するキャンパスには、サッカー場、10種類以上のレストラン、銀行、郵便局、スキーとバイク専門店、携帯電話ショップ、床屋、アートギャラリーがあり、ランチタイムにはライブのジャズ演奏が楽しめる」「給与と手当てでは他社は敵わないだろうから、転職する気はない」という声が上がっている。CEOには不満でも、Microsoftの社員であることには満足している、ということだろうか。

今年の「働きたい米国IT企業ランキング」のトップ25社は以下のようになる。

順位 企業名
第1位 Guidewire
第2位 Barracuda Networks
第3位 Rackspace
第4位 MITRE
第5位 Google
第6位 SAP America
第7位 Qualcomm
第8位 Avanade
第9位 Intel
第10位 Texas Instruments
第11位 Intuit
第12位 NVIDIA
第13位 Agilent Technologies
第14位 National Instruments
第15位 Nortel Networks
第16位 Apple
第17位 NetApp
第18位 Adobe Systems
第19位 Autodesk
第20位 FactSet
第21位 Citrix Systems
第22位 Microsoft
第23位 Ericsson
第24位 STMicroelectronics
第25位 Synopsys

上記に上げた7社に加えて特筆すべきは、米国以外の企業として、独SAPの米国子会社SAP America(6位)、スウェーデンEricsson(23位)、スイスSTMicroelectronics(24位)が入っていること。SAP Americaは昨年13位から順位を大きく上げており、EricssonとSTMicroは今年初のトップ25入りとなった

Facebookの創始者・Mark Zuckerberg氏。若干27歳ながら、CEOとしての評価は上々だ

ここまできて、このコーナーの読者なら、気になるのは米Facebookと米Twitterの順位ではないだろうか? Twitterは言及されていないが、Facebookはレビューが20に達していないことから「おまけ」として紹介されている(なお、Facebookは昨年もレビューが20に達していないことからおまけ扱いだった)。

ハーバード大学の学生時代にサービスを立ち上げたMark Zuckerberg氏はカリスマプログラマー・経営者として、Microsoftを創業したBill Gates氏、あるいはAppleのJobs氏とも比較されるが、支持も上がっており、昨年の92%から今年は96%。なお、Zuckerberg氏はまだ27歳だが評価は4.6と、第1位のGuidewireを上回っている。

従業員からは、「仕事は競争ではなく、協力。これまで勤務したどの職場よりもすばらしい環境」「労働時間は長いが、Facebookの開発者は楽しんで製品を開発する人が多いようだ」「進展が早く、内部の信頼も高い」などのフィードバックが。ソーシャルネットワーク業界が発展するなか、リーダーとして突っ走る会社に勤務していることへの誇りが感じられるコメントが目立った。