名古屋大学(名大)は9月29日、日本人由来肝細胞の肝機能を肝臓レベルまで高めることに成功したと発表した。
肝臓は薬物代謝を初めとする代謝の中枢臓器だが、肝細胞は体外に分離して培養すると急激に肝臓機能を失ってしまう。理由は未解明だが、ほかの細胞と比較して機能を体外で維持することが難しい細胞なのである。そのため、いまだに創薬の安全性試験では実験動物を使わざるを得ない状況だ。同じ理由から、肝臓病の治療法として古くから望まれてきた人工肝臓についても成功に至っていない。
また、薬物の解毒反応には人種差が大きく、薬に対する応答性(薬効や副作用)に差が出ることが知られており、日本人に適した応答性が得られる日本人由来の肝細胞が望まれていた。それが、今回3次元培養に応答するヒト肝細胞を選び出し、生体の肝臓のレベルまで肝機能を維持させることに成功したのである。
研究では、日本人由来の肝細胞を含めて機能が高いとされる8種類の肝細胞株を選び、その中で「3次元培養」に応答する肝細胞を選抜し、その応答機能とその程度を検討していった。3次元培養は、シャーレに塗布する細胞がマトリクスを変化させることにより行い、遺伝子の発現をヒト肝細胞と比較することにより肝機能を評価した。なお、3次元培養によってどのような効果があるかというと、通常はシャーレ内で2次元的に培養されるわけだが、立体的に培養することで実際の細胞の構成に近くなるわけで、機能に変化が出る場合があるのだ。
日本人由来細胞株の1つである「FLC-4」細胞は、3次元培養に応答して、ヒトの肝臓に比肩しうるレベルまでアルブミン、皮質代謝、薬物代謝などの肝機能が増強された。これまでは3次元培養が肝機能に効果的だとはほとんど思われておらず、細胞の種類や培地成分を変える試みがされてきたが、今回は3次元培養とFLC-4を組み合わせることにより、劇的な肝機能増強が見られ、研究グループは新知見を得ることができたという次第だ。
今回の成果による意義は、まず1つ目が人工肝臓に使えるヒト肝細胞として期待されること。2つ目は、創薬における安全性試験を行う肝細胞としても期待され、実験動物の数を減らせるとして期待されている。3つ目は、肝炎などのヒト肝臓病の研究材料として利用することができることだ。特に薬物代謝系などは人種差が大きいため、日本人由来の肝細胞である意義は大きいとしている。