東京大学は9月27日、西アフリカ原産のミラクルフルーツ(画像1)の果実に含まれる味覚修飾タンパク質「ミラクリン」による、舌に馴染ませると酸っぱいものを甘く感じられるというの不思議な効果について、その仕組みを解明したと発表した。ヒト甘味受容体に結合したミラクリンが酸性になると、ヒト甘味受容体を活性化させることで、酸っぱいものが甘く感じられるという仕組みだ。東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻の阿部啓子特任教授、三坂巧准教授、朝倉富子特任准教授らによる研究で、成果は「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」に掲載された。
ミラクリンは無味だが、これを舌に馴染ませた後に酢酸やクエン酸といった酸味を呈するものを味わうと、驚くほど甘く感じるという不思議な効果を起こす。この効果は1時間以上も持続し、酸っぱいものを口に入れる度に何度も甘く感じることが可能だ。まるでミラクリンが酸味を甘味に変換しているように思えることから、昔の人たちがミラクルにちなんでミラクリンと名付けたという。
この不思議な効果を解明するため、研究グループではヒト甘味受容体を発現させた培養細胞を用いてpHを変化させた時の甘味強度の測定を行った。まず、ヒト甘味受容体を発現させた細胞にミラクリンを投与した後に、酸性溶液で刺激を行ったところ、細胞応答が観察された(画像2)。酸性溶液投与による細胞応答は、pHが下がるに従って強くなった。
また、繰り返しの酸刺激においても観察された。ヒト甘味受容体を発現していない場合にはこのような現象は見られなかったことから、ミラクリンはヒト甘味受容体が酸性になると活性化することが判明したのである。
この時に使用したミラクリンの濃度は100nM(1リットル当たり約0.004g)以下という非常に低い濃度であり、これまで知られているヒト甘味受容体を活性化する甘味物質の中で、最も低い濃度で作用する物質であることも確認された。
一方、あらかじめ中性条件下でミラクリンを投与したヒト甘味受容体に、ほかの甘味物質を投与したところ、投与した甘味物質の活性を協力に阻害することも判明(画像3)。このことは、ヒト甘味受容体分子の細胞外に露出している領域にミラクリンが結合し、これによってヒト甘味受容体が活性制御されることを示唆している。
以上により、ミラクリンが酸味を甘味に変換する現象は、ヒト甘味受容体に結合したミラクリンが、酸性条件下でヒト甘味受容体を活性化するということが確認されたというわけだ。
なお、ミラクリンの示す甘味は、上品で非常に心地よい甘味として感じられるのが特徴。カロリーのないものを甘く感じるということは、生活習慣病に悩む現代人への福音ともなり得るので、味覚修飾タンパク質は、産業的にも非常に注目されているという。