産業技術総合研究所(産総研) ナノエレクトロニクス研究部門 主幹研究員 兼 3D集積システムグループ 研究グループ長の青柳昌宏氏、および同グループの菊地克弥研究員、加藤史樹 産総研特別研究員らは、赤外線動画を撮影できるサーモグラフィビデオシステムを用いて、半導体LSIデバイスの過渡的放熱特性を評価する技術を開発した。同成果の詳細は2011年9月27日にフランスで開催される「THERMINIC2011(17th International Workshop on Thermal investigations of ICs and Systems)」にて発表される予定。
3次元高密度実装LSIの実現には、シリコンチップの薄型化が求められるが、薄型シリコンチップでは短時間の発熱によって局所的に温度が高くなる部分(ホットスポット)が顕在化し、それによりトランジスタの特性が変化、消費電力の増大やリーク電流の増加、回路の誤作動などが懸念されている。
従来行われているLSIデバイスの熱評価方法は、例えばLSI中に作り込まれた数点の測定回路による温度データをもとにした大まかな熱分布の評価が行われるため、LSIデバイス内部で過渡的に発生するホットスポットのような、微小領域の過渡熱評価には適用できなかった。
今回開発された熱特性評価システムで、パルス電源を用いて短時間で加熱を行い、加熱のタイミングに同期させてサーモグラフィを用いて熱分布動画の撮影を開始し、初期温度に戻るまでの熱分布画像を取得、解析を行うというもの。このシステムの要素技術そのものはすでに確立されているが、今回は薄型半導体チップで発生が懸念されるホットスポットを主なターゲットとするシステムとした特化する形で開発が行われた。
この熱特性評価システムの検証のためにチップ厚を変えた外形サイズ3mm×3mmでチップの中央部表面には発熱体となる1mm×1mmのマイクロヒーターを形成したの熱評価デバイスを作製したほか、従来型チップのモデルとしてシリコン基板の厚み380μm、3次元積層LSIシステムに向けた次世代型のチップのモデルとしてシリコンチップの厚み100 μmの熱評価デバイスを作製して実験を行った。
それぞれの熱評価デバイスに同じ電力パルスを与え、マイクロヒーターを発熱させて温度分布を測定したところ、従来型チップのモデルでは熱が十分拡散し局所的な温度上昇は見られなかったが、薄型シリコンチップを用いた次世代型チップのモデルでは、ヒーターの発熱範囲である1mm角のうち約6%の範囲に高温部が集中して、ホットスポットが発生することが確認された。
薄型シリコンチップを用いる3次元積層LSIシステムでは、発熱部が重なりあった際に急激な温度上昇をもたらすため、ホットスポットへの対策が重要となってくる。こうしたホットスポットを抑制する手法の1つに、熱伝導率の高い材料を用いてLSIデバイスにヒートスプレッダを形成する方法があり、研究グループでは今回の熱特性評価技術がヒートスプレッダの評価に有効であることを確認するため、100μm厚のチップ裏面に10μm厚の高熱伝導膜を直接形成した熱評価デバイスを作製し、ホットスポットが発生する100μm厚チップの熱評価デバイスと比較した。
この高熱伝導膜は膜面方向の熱伝導率が約800W/mKとシリコンの約5.4倍あり、これをチップに付けることで、熱を素早く平均化しホットスポット発生を抑制することが期待できるという。これらの熱評価デバイスにそれぞれ11.8Wの電力を8.5ms間与え、マイクロヒーターを発熱させて測定したところ、ヒートスプレッダのない熱評価デバイスでは最高温度が76.0℃、ヒートスプレッダがある熱評価デバイスでは最高温度が64.3℃となり、最高温度が約22.1%低下していることが確認された。
また、熱評価デバイスの中央部とチップ中央部から1mm離れた部分の温度差の時間変化を比較したところ、ヒートスプレッダのない場合は温度差がなくなるまで200msよりも時間を要するが、ヒートスプレッダを付けることによって150msの時点で温度差がなくなっており、ヒートスプレッダによってチップ面内の温度分布が均一化されていることが判明した。
これらの結果から、同熱特性評価技術は、ホットスポット発生場所の特定と熱分布の検出、放熱過程の熱分布の時間変化などの計測に適用でき、3次元LSI積層集積技術による電子回路だけでなく、さまざまな高性能電子回路についての放熱特性評価も可能であることが確認された。また、今回行ったようなヒートスプレッダ材料などの効果検証や、LSIシステムの熱設計の検証なども可能と考えられるという。
なお、研究グループでは、同システムを活用し、民間企業、大学などと連携することで、低消費電力かつ高性能な電子回路を実現し、高性能コンピュータ、携帯電子機器、情報家電などへの応用を目指した実用レベルの技術開発を行っていく予定としている。