金沢大学 理工研究域の村上敏夫教授、米徳大輔助教と山形大学、理化学研究所などの研究チームは、電磁波であるガンマ線の偏光観測によって、宇宙最大の爆発である「ガンマ線バースト」の放射メカニズムを解明したことを明らかにした。
ガンマ線バースト(GRB)は、100億光年以上先の初期宇宙から数10秒間だけ大量のガンマ線が飛来する現象。ガンマ線の総エネルギーは超新星爆発をはるかに凌ぐ、宇宙最大の爆発現象と認識されており、一瞬だけだが明るく輝くため、初期宇宙を見渡すための鍵として近年、注目されてきた。
さまざまな観測から、ジェット状にエネルギーが噴き出していることはわかってきたが、肝心のガンマ線を作り出すプロセスについては不明な点が多く、ガンマ線放射として膨大なエネルギーを解放する物理過程は観測的に突き止められていなかった。有力な説としては、ジェット内部に強磁場が存在し、そこに電子が絡みついてガンマ線を作り出すシンクロトロン放射が考えられている。もし、こうしたメカニズムが働く場合、ガンマ線光子は強く偏光するため、ガンマ線偏光を検出することがGRBの放射機構に迫る手段と考えられてきた。
そのため、これまでのGRB観測では、「発生した方向」、「ガンマ線強度の時間変化」、「ガンマ線エネルギー」、という3種類の物理量が観測されていたが、もう1つの重要な情報である「偏光」を観測することで、新たな切り口で放射メカニズムに迫ることができるようになり、もしそれが検出できれば、理論的に考えられているような磁場の存在を立証できることとなる。
研究チームでは、ガンマ線バーストの偏光を観測できる装置「ガンマ線バースト偏光検出器(GAP)」を開発し、2010年5月21日に打ち上げられた小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」に搭載、ガンマ線バーストの観測を行った。
GAPは、直径17cm、高さ17cm、重量3.7kg、消費電力5Wの小型装置ながら、ガンマ線の偏光を測定する機能を有したユニークな観測装置。ガンマ線は偏光方向と垂直に散乱しやすいという性質があるため、その散乱角度分布を測定できるようになっている。
IKAROSが地球から金星に向けて航行している2010年8月26日に、非常に明るいガンマ線バースト(GRB100826A)を検出。ガンマ線強度の時間変化を示した図を見ると、前半に大きなパルス、後半に小さなパルス群があるため、前半と後半に分けて偏光解析を行った。
金星へ航行中の2010年8月26日に、非常に明るいガンマ線バースト(GRB100826A)を検出した。同バーストは偏光観測に好条件なGAPの前方21度の方向で発生したため、偏光解析が行える観測例となった。左上の図はバーストを検出した時の地球とIKAROS探査機の位置関係で、右上の図がバーストのガンマ線強度変化を表す |
この結果、偏光の測定データはパルスの前半も後半も、緩やかなM字型の散乱強度分布をしていて、ガンマ線が偏光していることが確認された。中でも、前半と後半で山と谷の位置が変化しているため、偏光方向が変わった(磁場の向きが変わった)ことが考えられ、詳しい統計解析を行った結果、偏光度は27±11%で偏光検出の信頼度は99.4%となり、偏光方向の変化は99.9%の信頼度となったという。
偏光測定データ(左)。M字型(W字型)の散乱分布であるため、偏光していることがわかる。右は統計解析した結果。GRB100826Aの偏光度は27±11%であると結論付けられたほか、偏光方向は99.9%の信頼度で変化していると言えるという |
この観測の結果、以下のようなシナリオが考えられるという。
- 重い星が超新星爆発を起こしてブラックホールが誕生すると、中心からほぼ光速のジェットが飛び出す。
- 「ガンマ線の偏光が検出された」ことから、ガンマ線放射領域には数万ガウス程度のよく揃った磁場が存在していると考えられる。
- 「偏光方向が短時間で変化した」ことから、ジェット内部にはガンマ線を作り出す領域がいくつか点在しており、それぞれの磁場の向きは異なっていると考えられる。
- 電子・陽電子が強磁場に絡みつくことでガンマ線を作り出していると考えるのが自然(シンクロトロン放射)。
これらの観測事実を総合すると、宇宙最大の爆発「ガンマ線バースト」は強磁場を持った幾つかのジェットからの放射であると考えられると研究チームでは結論付けており、これによりガンマ線バーストの大きな謎の1つに、重要な示唆を与えることができたとしている。