横浜市立大学などで構成される研究グループは、2011年3月に開発した培養条件下でマウスの精子幹細胞から精子産生できる技術を発展させた「体外移植培養法」を開発したことを明らかにした。同技術は単離された精子幹細胞や細胞株からでも培養下で精子を造ることができるほか、不妊マウスの精子幹細胞からの精子形成にも成功したという。
同研究は、先端医科学研究センターおよび同大附属病院の小川毅彦准教授(泌尿器病態学・窪田吉信教授)らの研究グループと理化学研究所バイオリソースセンター・小倉淳郎教授らのグループとの共同研究による成果で、「Nature Communications」(オンライン版)に掲載された。
マウス精子幹細胞の培養法は、京都大学・篠原隆司教授らのグループによって2003年に開発された。その培養精子幹細胞(Germline Stem Cells:GS細胞)は、幹細胞能を保ったまま長期間増殖可能で、その遺伝子改変も可能な細胞であることから、精子幹細胞を研究する上で優れたシステムとなっている。しかし、GS細胞をin vitroで精子へと分化させる方法はこれまで確立されておらず、GS細胞を分化誘導して精子形成させるためには、精巣内へ移植するなど、生体内に戻さなければならないという手間が生じていた。
同研究グループでは2011年3月に古典的な器官培養法を改良し、新生仔マウスの精巣中の前精原細胞から精子形成を進行させ、in vitroで妊孕能のある精子を得ることに成功したことを「Nature」にて報告しており、同器官培養法を応用すれば、GS細胞をin vitroで精子に分化させられるのではないかと考え、これまで研究を進めてきた。
具体的には、まず精子形成の進行を簡便にモニタするために、生殖細胞で減数分裂特異的にGFPを発現するトランスジェニックマウスからGS細胞を樹立した。次に、仔マウスから取り出した精巣の精細管内にGS細胞を注入移植し(体外移植)、その精巣組織片をアガロースゲル上で培養した。
その結果、生体内とほぼ同様のタイミングでGFPの発現が観察されたほか、それらの精巣内には、半数体である精子細胞および精子の形成が確認された。
さらにそれらの精子細胞・精子を用いて顕微授精を行ったところ、精子細胞を注入した卵から健康な産仔を得ることに成功したという。
加えて研究グループは、今回開発した同方法を不妊症の治療に応用する発展を目指し、不妊マウスをモデルに実験を実施しており、精巣内環境が異常なために無精子症になっている突然変異マウス(Sl/Sld)の精子幹細胞を正常マウスの精巣に注入移植し、その組織を培養することで、精子形成を誘導することに成功したという。
この結果から、研究グループでは、今回開発された同手法はGS細胞のみならず、精子形成能を持つどのような細胞にも応用できる可能性があり、精子形成の分子メカニズムや不妊症の病態を解明する基礎研究に応用でき、男性不妊症の診断・治療に貢献することが期待されるとしている。