富士通研究所は9月12日、光と電波の中間であるテラヘルツ(THz)波(画像1)を用いた透過による非破壊の物質検査を行う手法について、従来に比べ25倍高速に検査できる技術を開発したことを発表した。

テラヘルツ波は、波長で0.3mmという光と電波の中間の性質を持っており、紙やプラスチック、布といった金属以外の物質をよく透過する。また、テラヘルツ波はその物質特有の「指紋スペクトル」を測定できるため、例えば同じように見える錠剤においても、それが何の薬かを判明できるというわけだ(画像2)。

画像1。電波の波長と周波数の関係。テラヘルツ波は一般的には電波の一種であり、波長は上はミリ波と接する3mm前後から下は遠赤外線と接する30μm前後までの波長を持つ。周波数では、0.1~10THz前後という具合だ

画像2。テラヘルツ波で得られた分光像。一番左は測定試料で、上側の球体がポリエチレン製、下側がポリエチレンにグルコースを加えたもの。その右側がテラヘルツ波で2つの試料を透過したときの像だ。さらに右の2つは、スペクトル分析による判別で、物質が異なれば見え方が異なり、判別がつくというわけである

これは、テラヘルツ波を物質に照射すると、その物質により透過や吸収の特性がそれぞれ異なるからであり、どの周波数のテラヘルツ波を透過したか、または吸収したかによってその物質を特定できるという仕組みである。

またテラヘルツ波は、X線と比較して人体に対して安全であるという特徴があるため、セキュリティ検査や医療目的などにも効果的とされている(画像3)。封筒の中味の検査や税関の荷物の非開封検査、食品中への混入物の検査、損傷や劣化などを調べるデバイスの品質検査など、モノの内部を見える化する用途に幅広く応用できることが期待されている。

目で見えず、カメラでの撮影も不可能テラヘルツ波での検査は、「電気光学結晶」を用いて、テラヘルツ波の強度の変化が、カメラで見ることができるプローブ光の強度変化に転写される方式を利用して行う(画像4)。

画像3。ミリ波、テラヘルツ波、X線による物質の内部の見える化に関する比較。指紋スペクトル、人体への安全性という面でテラヘルツ波が優れているのがわかる

画像4。従来のテラへツル波による測定の仕組み。指紋スペクトル、人体への安全性という面で優れていても、測定に非常に時間がかかるという欠点があった

電気光学結晶にテラヘルツ波を照射すると、テラヘルツ波の強度の強弱が複屈折率の強弱として記録される。この記録された電気光学結晶にプローブ光を照射すると、楕円の位相を持つ波になるので、光学系を用いることで、カメラに感度を持つ波長のプローブ光での強度差に変換できるという仕組みだ。

この仕組みを利用して、テラヘルツ波を透過させたい対象物に照射すると同時に、プローブ光を斜めから当てることで透過してきたテラヘルツ波とプローブ光に生じる時間差を利用し、対象物の透過した時間波形を得るのである。

しかしこの方法では、1回の照射で対象物の1方向のみしか測定できず、対象物の全体像を測定するには対象物を少しずつ移動させて何度も照射する必要があった。そのため、どうしても検査に時間がかかってしまっていたのである。

そこで今回、その欠点を克服するため、テラヘルツ波と斜め入射によるプローブ光を用いた検出法において、プローブ光の途中に新たに開発した多数の段差を用いた「段階上ミラーアレイ」を配置するという仕組みを開発した(画像5)。

画像5。今回開発された方式。階段状ミラーアレイにプローブ光を反射させ、電気光学結晶の波面を小さく分割している点が異なる

これにより、物質に対して複数回の移動をしたのと同等の効果を得ることができ、1回の照射で全体の検査が可能となったのである。縦横30mmの対象物の測定時間で、従来の34分から1分21秒へと約25倍という、桁違いの高速化を実現した。

今後はさらなる高速化を行い、2014年頃の実用化を目指すとしている。また、もの作りの検査への応用も進めているとした。