味の素と神奈川県立がんセンターは9月8日、がん患者は健常者と比較して「血中アミノ酸濃度バランス」が有意に変化していることなどを共同で発表した。その変化は早期がん患者からも認められること、および血中アミノ酸濃度を変数とした「多変量解析」により、がんの早期発見への応用が可能であることなども明らかにしている。研究成果は、9月7日(米国時間)に米オンライン学術ジャーナル「PLoS ONE」に掲載された。

味の素では、血中アミノ酸濃度のバランスの変動を統計学的に解析・指標化し、健康状態や持病のリスクを明確にする「アミノインデックス技術」の研究開発を行っている。血中アミノ酸濃度は、生体の恒常性維持機能により一定に制御されるが、種々の疾患においてはバランスが崩れ、健常者と比較して変化していることが多くの論文でこれまで報告されている。ただし、これまでのがん患者における血中アミノ酸濃度の変化についての研究は、小規模に留まっていた。

しかし今回の研究では、複数の病院や人間ドックから早期がん患者を含めて大規模に臨床症例の収集を実施。血中アミノ酸濃度バランスを測定することにより、がん患者と健常者とを判別する可能性を検証するための症例対照研究が行われた。

今回の研究では、5種類のがん(肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん)について調査。がん種ごとに130~200名、合計928名のがん患者と、がん種ごとに対象として650~1000名、合計4618名の健常者における血中アミノ酸濃度バランスの比較が行われたのである。

その結果、健常者に比べてがん患者は血中アミノ酸濃度バランスが有意に変化していることが判明。また、がん患者における血中アミノ酸濃度バランスの変化には、がん種間で共通するアミノ酸群の変化と、がん種により特徴的に現れるアミノ酸群の変化があることも確認された(画像1)。

画像1。5種類のがん患者の、血中アミノ酸濃度バランスの変化。健常者のアミノ酸濃度バランスが円形の黒実線で表されており、がん患者のものはその相対値として示されている。黒実線の内側の灰色の領域にプロットされるアミノ酸は、健常者よりも低下していることを示し、外側の白い領域にある場合は増加しているという具合。どのがんも健常者に対してかなり増減がある上に、それぞれのがんで特徴的なところが見られる

また、血中アミノ酸濃度バランスの変化は、早期がん患者でも認められることも判明。さらに、多変量解析の一種である判別分析を行うことで得られた判別関数は、がん患者と健常者を「ROC(受信者動作特性)曲線下面積」で0.75以上の制度で判別できることを示す結果も得られている。

ROC曲線下面積とはある検査によって正しく診断される確率を表す指標で、0.5~1の値を取り、一般に0.7以上で有効な検査、0.8以上になれば優れた検査とみなされるというもの。今回は0.75以上だったので、有効な検査であり、優れた検査に近いといえるわけだ。なお、この判別関数を用いると、早期がん患者でも判別できることが示されている。

今回の研究で得られた知見を応用することで、アミノインデックス技術によって、血液で簡単でいて高い精度で複数のがんの早期発見ができる可能性が出てきたとしている。同社では、今後アミノインデックス技術に関して疾患の対象を拡充していくとともに、血中アミノ酸濃度バランスが変動する機構の解明、ならびに「コホート研究」など、さらなる研究を継続していくとしている。

なお、コホート研究とは疫学研究法の一種で、ある集団を将来にわたって追跡調査を行い、後から発生する疾病を確認するという研究手法のこと。例として、血中アミノ酸濃度バランスの解析結果から疾患リスクが高いと判別された被験者群と、疾患リスクが低いと判別された被験者群というように分類し、将来の疾患発生率の研究を行い、血中アミノ酸濃度バランスとの間にある因果関係を調べるような研究を指す。