産業技術総合研究所(産総研)の生産計測技術研究センター 主幹研究員兼光計測ソリューションチーム 研究チーム長 野中一洋氏、および同チーム 坂井 一文招聘研究員、蒲原敏浩産総研特別研究員の研究チームは、住友電工プリントサーキットと連携して、光学的な手法により金めっき表面を測定して光沢ムラの数値化を行い、自動判別を可能とする小型検査装置を開発したことを発表した。同装置はフレキシブルプリント回路基板(FPC)の金めっき外観検査などに使用できるという。
金めっきはプリント基板やコネクタなど多くの電子部材に使用されているが、金めっきのムラ、シミ、変色などの外観異常については、限度見本と見比べる目視によって検査が行われているのが現状であるため、検査者ごとの検査結果のバラつきや製造者側とユーザー側の基準のずれなどが生じ、製品品質に関するトラブルや過度の不良品発生などを招く結果となっており、不良品発生の低減と製品品質の安定化のためには、光沢ムラなど、外観異常の原因となる表面性状を数値化し、めっき工程へのフィードバック機能を強化することが求められていた。
一般に金めっき表面の画像を直接画像処理してムラを検出する手法が行われているが、低コントラストのムラは、画像処理だけでは検出が難しいことから。今回の研究では、ムラの特徴量を引き出す光学系(目の部分)による測定と、測定結果から特徴量を計算する汎用画像特徴抽出法である高次局所自己相関HLAC(頭脳部)を用いて、ムラの分類と数値化が行われた。
具体的には、検査対象物の外観異常について原因となる物理量を決定し、その計測方法を考案し、汎用画像特徴抽出法と統計処理法の組み合わせによって数値化して、検査対象物の良否の判別を行うというもので、研究チームでは、光沢ムラには有機物などの付着物もあるが、ほとんどの場合は表面の粗さの違いによる正反射・拡散反射光の違いが原因であること、すなわち異常光沢部は正常光沢部に比べて表面粗さが小さく拡散光成分が小さいことを見出した。
また表面粗さは、光の各偏光成分の反射にも影響を及ぼすことを明らかにし、金の表面粗さと直線偏光(Is/Ip=1/1)の光を入射したときの拡散光の偏光成分比(Ψ=tan-1(Is/Ip))の関係から拡散光の偏光成分比から表面粗さを求められることを見出した。
試作した金めっき光沢ムラ検査装置は簡潔ながら、試料からの拡散光(散乱光)について、その偏光成分比(Is/Ip)の変化を測定するため、光源の出力変化や外乱光の影響などを受けにくくロバスト性に優れており、低価格での製品化が期待できるという。
また、FPC金めっきパッドの光沢ムラ検査では、サンプルの金めっきパッド部について、各点の拡散光の偏光成分比から表面粗さ分布に対応した画像を取得し、これから産総研シーズ技術である汎用画像特徴抽出法HLACを利用して特徴量を計算、5次元の特徴空間を構成し、その空間から判別分析を行うことで、光沢ムラの程度を数値化、良否判定のみならず3つのムラの種類(境界型、三日月型、斑点型)を識別できることを確認したという。
なお、研究チームでは今後、現場適応性の検証を経て装置の製品化を進めるとともに、検査法の規格化・標準化に向けた取り組みを行っていく予定であるとしている。