セイコーインスツル(SII)は、計測分析装置の製造販売を行っている同社子会社エスアイアイ・ナノテクノロジー(SIIナノテク)が分子イオン低減性能と感度を高めたICP質量分析装置(ICP-MS)「SPQ9700II」の販売を開始したことを発表した。
ICP-MS(Inductively Coupled Plasma - Mass Spectrometry)は、高エネルギーのプラズマによってイオン化された原子を四重極質量分析計に導入し、目的の質量のイオンのみを検出器によってカウントする事で、試料に含まれる元素の高感度分析を行なうという分析装置。
ppmからpptオーダーの感度で微量元素の定量が可能であるため、ウランやプルトニウムなどの放射性元素の測定や、環境、食品中の金属分析、半導体関連材料中の極微量の不純物分析、工業製品に用いられる材料の品質管理や生体試料の分析などに広く用いられている。
しかし、四重極質量分析計は、プラズマの生成に使用するアルゴンガスや試料中のマトリックス成分に起因する分子イオンなどのスペクトル干渉による検出下限の悪化が問題になる。同装置では同社第2世代となる分子イオン干渉除去機構「CRI II(Collision Reaction Interface II)」を搭載することで、質量分析計の前に反応セルを用いないシンプルな構造を実現し、従来以上に効果的な分子イオン干渉の除去を実現することが可能となった。
また、90度反射型イオンミラーとカーブドフリンジロッドの採用により、電荷を持ったイオンのみを検出器に導入することができるようになったほか、プラズマからの紫外光を完全に遮蔽できるためバックグランドノイズの低下とイオン透過率の向上が実現され、10億cps/ppmの感度を実現しつつ、マトリックスに強いロバストな(諸外乱に対しても安定した)分析が可能となった。
さらに、プラズマに窒素ガスや酸素ガスを全自動で添加するアディショナルガスコントローラ「Nitrox500」をオプションとして用意。これにより、例えば河川水や排水など環境試料の検査では、窒素ガスを添加することでヒ素やセレンの検出下限を改善したほか、酸素ガスを添加することで、メタノールなどの有機溶媒を用いた試料の分析性能も向上したという。加えて、従来CRIモードによる環境試料分析では水素ガスとヘリウムガスの切り替え利用が必要であったが、同装置ではヘリウムガスのみを使用した分析が可能になったという。
なお、同装置の価格は2000万円(税別)からとなっており、年間30台の販売を目指すとしている。