浜松ホトニクスは、独自開発のTHz波用素子一体型プリズムを搭載した、液体試料が計測可能で粉体試料の前処理が不要なTHz波減衰全反射分光(ATR)法専用分光分析装置を開発したことを発表した。2012年4月より研究期間や企業の開発部門などに向けて販売を予定している。
THz波は水に強い吸収があるため、通常の透過計測では500μm厚で1000億分の1に減衰して透過しなくなる。そのため、タンパク質やDNAなどの生体高分子の水溶液のように水の吸収が大きく、厚い試料の透過計測は困難であった。ATR法は、プリズム面に臨界角度以上でTHz波を入射し、全反射時にプリズム面をしみ出たエバネッセント波と試料とを相互作用させ、その結果減少した減衰反射率を観測する計測法で、吸収が大きな水などの試料の計測が可能なほか、透過計測の場合、粉体はポリエチレンの粉末と混ぜてプレスし錠剤状にしたものを計測する必要があったが、ATR法ではそのままの状態で計測が可能という特徴がある。
同開発品は、独自開発のTHz波用素子一体型プリズムを搭載し、ATR法専用に装置化したもので、主要デバイスの全反射プリズムには、THz波を良く透過する高抵抗シリコンを材料に用いて多軸精密加工機で加工し、自社製THz波用光伝導素子の発生用素子と検出用素子をプリズムに接着して一体化したことで、入出射界面での反射損失の低減に成功した。
また、従来のATRユニットなどでは、素子とプリズムが別々に配置されているため、入出射界面でのTHz波の反射損失が大きく、またTHz波の水蒸気などによる吸収の影響を抑えるために窒素を充填していたが、同開発品では、一体型プリズムにしたことで、素子とプリズムの間の窒素の充填が不要になったと同時に、集光レンズなどの光学系も不要とした。
近年、THz波領域には、様々な物質が固有の吸収スペクトルを持つことが明らかになりつつあり、化学物質や糖類、アミノ酸類、ビタミン類、脂質、タンパク質に物質固有の吸収スペクトルが報告されつつあるほか、固体中の光学フォノン散乱、プラズマ周波数、超伝導ギャップ、分子の振動、分子間相互作用などがTHz波領域にあるため、応用の可能性は、工業・医療・バイオ・農業・セキュリティなどの分野での活用も期待されているという。