産業技術総合研究所(産総研)は9月2日、ダイヤモンド半導体を用いた電力増幅作用を持つバイポーラトランジスタを作製したことを発表した。
同成果は同エネルギー技術研究部門 山崎聡 主幹研究員、および同電力エネルギー基盤研究グループ 加藤宙光 研究員、小山和博 元研修員らによるもので、詳細は9月5日よりドイツで開催される「第22回ダイヤモンド欧州会議」発表される予定。
ダイヤモンドは、宝石としてのみならず半導体材料として高い特性を有しており、究極の半導体とも言われている。高電圧をかけても壊れず、また大電流を流したときに発生するジュール熱を効率的に逃がすことができるが、ダイヤモンドは一般的には電気抵抗が大きな、絶縁体に近い半導体であるため大電流を流すことができないことが、パワーデバイスとして利用する上で大きな課題となっている。
産総研は、これまでの研究でダイヤモンドに不純物を添加しても結晶構造が良好に保たれることに注目した高濃度の不純物を混入する技術の開発と、一般の電子デバイスに見られるバンド伝導ではなく、「ホッピング伝導 と呼ばれる電気伝導機構を積極的に利用することでダイヤモンドの低抵抗化を実現していた。
ダイヤモンド半導体によるパワーデバイスは、ホッピング伝導とバンド伝導を組み合わせることが重要となるが、産総研では、これまでに高濃度にホウ素を添加したp+層と高濃度にリンを添加したn+層の間に、不純物の混入を極力低くしたイントリシック層(i層)を入れたダイオードを作製しており、1万A/cm2を超す電流密度を実現することができるほか、逆方向に電圧をかけても電流が流れない良好な半導体特性を確認していた。
今回の研究で開発されたバイポーラトランジスタは、前回のダイオードよりもさらに巧みにホッピング伝導とバンド伝導を組み合わせることで実現されたもので、その模式は、高濃度不純物層であるp+層とn+層、不純物をほとんど含まないi層に加えて、リンの濃度をコントロールしたn層を使い、デバイス構造を工夫することによって作製されている。
電力増幅の測定結果は、トランジスタの入力に対応するベース電流の変化に対して、出力となるコレクタ電流の変化が10倍程度となり、電流の増幅率が10を超えることが確認できた。
今後、電流密度を増やすなど、さらに特性を向上させる必要があるが、ダイヤモンド半導体でも室温でバイポーラ動作によるトランジスタが実現できたことは、ダイヤモンドの優れた物性を活かした高性能パワーデバイス実現への第1歩となると研究チームでは説明しており、スマートグリッドなど、ダイヤモンドパワーデバイスの将来の活躍の場を明確にし、絶縁耐圧や電流密度などの優位性を確認することで、ダイヤモンドパワーデバイスの研究開発を加速し、発展させていくとしている。