国立天文台は、2011年7月2日(ハワイ時間)に障害が発生した「すばる望遠鏡」について、7月22日の「ナスミス焦点」による共同利用観測を再開に続き、「カセグレン焦点」でも8月25日に試験観測を行い、8月26日より共同利用観測を再開したことを発表した。
カセグレン焦点は主鏡の下にあり、冷却液漏れによる直接の影響を受けた部分だが、障害を起こした主焦点部とはまったく別の箇所にある。現在、障害を起こした主焦点部ユニットは望遠鏡から完全に取り外されており、当面の共同利用観測では、冷却液を使わない副鏡を主焦点部にとりつけ、それで観測可能なナスミス焦点およびカセグレン焦点の利用が進められている。
また、障害発生当時にカセグレン焦点に設置されており冷却液漏れによる影響を受けた観測装置「微光天体分光撮像装置(FOCAS)」および周辺光学系は、現在、取り外して状況の調査・修理が進められている状況。そのため今回は、障害発生時にカセグレン焦点に設置しておらず、また周辺光学系の機能がなくても観測を実施できる観測装置として、「冷却中間赤外線分光撮像装置(COMICS)」と、「多天体近赤外撮像分光装置(MOIRCS)」の撮像機能による観測再開となっている。
COMICSは、すばる望遠鏡のあるマウナケアの有する高い中間赤外線透過率(空気が薄く乾燥している)を生かすための分光撮像装置であり、惑星系の形成過程や系外銀河の大規模な星形成現象、星間空間の固体成分である塵(ダスト)の性質や形成過程を調べることができる。
一方のMOIRCSは、近赤外線用として400万画素の検出器を2つ持つカメラで、口径が8~10m級の大望遠鏡としては世界で初めて、近赤外波長域で一度に多数の天体の分光観測を可能にした装置。撮像観測の場合、周辺光学系を使わなくとも観測可能なものがあり、2011年8月から始まった2011B期では、9月中旬に最初の観測が予定されている。
なお、FOCADは、可視光で高い感度の観測を行う基本装置で、視野内の100個の天体のスペクトルを同時に撮影できる機能を使用することにより、宇宙の果て近くにある銀河までの距離を調べることができるというもの。 今回の冷却液漏れ事故が起きた夜にカセグレン焦点に付いていたため、影響を受けており、現在は部品を取り外して検査が進められている。