テクトロニクス社は8月30日、新ジャンルのオシロスコープ「MDO4000シリーズ」を発表したのは既報のとおり。同発表会に出席したTektronixのオシロスコープ事業部ジェネラル・マネージャのRoy Siegel氏に同製品に関して話を聞く機会をいただいたので、同製品にかける同社の意気込みなどをお伝えしたいと思う。
組込分野におけるオシロスコープの活用方法の一新を狙う「MDO4000」
同社では同製品をカスタマに向けて「Game Changer」であると説明している。それだけでは意味が良く分からないのだが、要は、組み込み分野は製品開発期間の短縮が求められるが、その一方で機能が複雑化し、さらにはRFへの対応も求められるようになってきた。もはや組み込みエンジニアでもRFを知らないで済ますことは難しくなってきたし、かと言ってオシロスコープとスペクトラム・アナライザ(スペアナ)を使い分けて運用できるノウハウがあるかというと、すべてがそうとは限らない。信号解析ソフトも別売りという場合もあるし、「アナログとデジタルをオシロスコープで測定し、RFをスペアナで測定する場合、それぞれの波形の時間相関が取れず、そのセットアップにも時間がかかる」(同)ということで、そうした本来の開発と関係ない余分な手間を省くことができ、かつスペアナ、オシロスコープ両方の見方を相関関係を持たせた1台でできるというメリットがこれまでの測定の有り方を変えるもの、ということで「Game Changer」と称しているようだ。
そのため、「組み込みエンジニアのトラブルシューティングをするための対応ツール」と述べるようにメインのターゲットはミッドレンジオシロスコープの活用を検討しているコンシューマ、自動車、通信といった分野の組み込みエンジニアということが想定されている。
従来の同社オシロスコープ「MSO4000シリーズ」などはオシロスコープにロジックアナライザの機能が統合されたモデルだが、今回のMDO4000シリーズはこれにスペアナの機能が統合されたものとなっている。ここまでくるとオシロスコープとは別の何か、という言い方でも良さそうではあるが、あくまで同社ではオシロスコープの延長線上にあるものであることを強調する。「我々はMDO4000シリーズを従来オシロスコープベースのツールとして開発した。そのためインタフェースはオシロスコープ部分はMSO4000シリーズと同じだし、スペアナ部分も直感的に使えるような工夫を施した」とのことで、実際にプロトタイプをRF側のカスタマにテストで使用してもらったところ、マニュアルなどは用意していなかったが、1時間程度でオシロスコープ、スペアナ双方の機能を使いこなし、かつ時間相関のとり方なども理解してくれたという。
「確かに学習を必要とする部分はある。しかし、それも十分に分かりやすいように工夫を施したし、そうしたことを実現できるようにさまざまな革新的な取り組みも採用した」と、オシロスコープとしての使いつつ、スペアナとしてもそのままシームレスに使えることを重視した作りになっていると説明する。
「ポイントは2つの計測器を単に合わせるだけでは意味がないということ。それだったら、2台の計測器を並べてテープで止めるだけで良い。その2台の計測器が1台になったことで生み出される新しい価値をどう提供していくかが重要だ。今回はカスタマニーズとしてワイヤレスへの対応があったため、スペアナの機能を統合し、オシロスコープとの連携を果たした」(同)と、単に2つの計測器を統合しただけでは得られない付加価値も加わっていることを強調する。
その一方で価格は戦略的なものとなっている。一番下のモデルで238万円(税別)、最上位モデルでも338万円(税別)で従来のスペアナとオシロスコープを足すよりも安い価格となっている。「価格はメインストリームのカスタマが好むレンジで設定した。もちろんMSOシリーズのユーザーが移行してくることも想定しているが、それ以上に競合のオシロスコープを購入していたエンジニアが、新たにオシロスコープを調達する際の選択肢になることを意識した」と、その価格設定の理由を説明する。
また、MDO4000の筐体は従来のMSO4000と同等サイズを実現しており、奥行き15cm、重量5kgとオシロスコープとしては携帯性が高いものとなっている。従来のオシロスコープ部分のモジュールにスペアナのモジュールを別に用意、それぞれをしっかりとシールドなどすることでノイズの影響なく、それぞれの波形を測定することを実現した。こうしたサイズや性能については「日本のカスタマニーズにマッチするということで開発が進められた。組み込みという市場を考えると日本を抜いては考えられない。近い将来、日本の組み込み分野ではRFが当たり前となるはずで、そうした意味ではMDO4000シリーズは日本でこそ大きく成長できると思っているし、日本市場での動向がMDO4000シリーズの成功の鍵となる」と、日本のカスタマをかなり意識した作りであるとしている。
実際に、同社の同製品の日本地域に対する取り組みはこれまでにないほどの力の入れようで、実はすでにパートナー向けと、カスタマのトップ向けに説明会を開催しているほか、9月6日には「テクトロニクス・イノベーション・フォーラム」を東京で開催し、その後、福岡、大阪、京都、名古屋と製品紹介を行うロードショーを1カ月実施し、最後はCEATEC 2011への出展を予定しているという。
また、ワールドワイドでも注力しており、同社Webサイトでは「analog+digital+RF=」と書かれたティザー広告が展開されているほか、8月31日午前9時(日本時間)からは同製品に関するバーチャルイベントが開催される予定で、Webセミナや同社技術スタッフとのライブチャット、製品デモ、動画、技術書のダウンロードなどのMDO4000シリーズに関する各種コンテンツを見ることができるようになっている。