東海大学は8月24日、同大湘南キャンパスで2011年のオーストラリア大陸縦断ソーラーカーレース「World Solar Challenge」に対する参戦計画を発表し、同大湘南キャンパスにて報道陣に向け参戦マシンを公開した。
同大のソーラーカーレースへの取り組みは90年代より研究室や部活動として始まり、2005年からは同大が設置したチャレンジセンターのライトパワープロジェクトの1つとして実施されているもので、大学としてレースに勝つことや参加することを超えて、広く大学教育活動の一環および産学連携として大学全体の行事として取り組みを進めてきており、2009年大会ではソーラーカーとして巡航速度ほぼ100km/hを達成し総合優勝も果たしている。
今回のレースについては3月11日に発生した東日本大震災もあり、一時は参加するか迷ったものの、原発事故もあり、自然エネルギーによる発電に注目が集まりつつあることも踏まえ、太陽光発電を日本で拡大するという意義も踏まえ、創エネ、省エネ、畜エネの技術を結集して日本の技術の未来を切り開くことを目指し、参戦を決意したという。
レースは10月16日より始まるが、現在までに20の国と地域から42チームがエントリー。日本からは同大のほか、芦屋大学とTeam Okinawaの2チームが参戦予定となっている。
東海大が2005年より進めているライトパワープロジェクトはソーラーカーのほか、電気自動車、人力飛行機の合計3つのチームで構成されている |
レースはオーストラリアのダーウィンからアデレードまでの3000kmをソーラーカーで駆け抜けるというもの |
また、エネルギー問題や地球温暖化問題などの世界的な諸問題の解決に向けた技術ソリューションを構築することも目的としており、パナソニックおよび三洋電機、東レなどの複数の日本企業が協力しており、今回は同レースカー向けに特別に企業が開発した素材や部品を用いることなく、一般に手に入る素材などを用いてレースカーが作られている。
特に、今回のレースの肝となるのが太陽電池で、今回は三洋電機のHIT太陽電池が中心的な役割を果たすこととなる。これはレースのレギュレーションが今回変更され、化合物系の太陽電池の面積比率が下げられた(前回6m2、今回3m2。Si結晶系の面積は6m2で変更されず)ことに起因する。レースのメインとなる南オーストラリア州の制限速度110km/hに前回レースで到達してしまったことによる太陽電池の出力を下げて速度を抑えようというものだが、今回の車体での走行試験では100km/h程度を以前に増して安定的に出せるようになったと、レギュレーションの変更を感じさせない出来上がり具合となっているという。
レギュレーションの変更によりSi結晶系よりも高効率な化合物系太陽電池の面積が減らされ出力を抑える措置が取られた |
面積が減った化合物系に替わる形で重要性を増すのがSi結晶系太陽電池。HIT太陽電池は結晶系としては世界トップクラスの変換効率を実現しており、今回、選択された |
この車体の安定化に寄与したのが、車体の軽量化。今回、東レの炭素素材「トレカ」でF1などにも用いられている1K品を、童夢カーボンマジックの協力でボディ材料に採用。これにより従来の160kgから140kgへと20kgの軽量化を果たしたほか、ヤマハのスーパーコンピュータを用いて空力解析を実施した結果、車体長や車幅、ホイールベースが短くなったが、ステアリング機構の改良などバランスを良くする工夫を施すことで、安定性が増したという。
今回の参戦に際し、パナソニックは「HIT太陽電池は量産型住宅向け太陽電池で世界最高効率を達成しており、狭い面積で高効率の実現が求められるソーラーカーには最適と考えている。一方のリチウムイオン電池も業界最高レベルの容量密度を達成しており、長時間駆動と軽量化によりそソーラーカーのポテンシャルを最大限引き出すことが可能となる」と説明し、同地へのスタッフの派遣による創エネと畜エネの連携したエネルギーソリューションを通じたバックアップを行っていくとする。
また、一方の東レも「2連覇を東海大が狙っているという話を聞いて参加を決意した。世界一を狙うのであれば世界一のソーラーカーを作る必要がある。1位を取った2009年モデルから1割以上の軽量化を果たしたいという要望があり、それに見合う車体をパートナー(童夢)と一緒になって作らせてもらった。素材はボーイングやエアバスが使っている3AとF1や人工衛星などに使っている1Kを混ぜており、世界最高のボディができたと思う。世界一を狙わなくても良いという人もいるが、やはり勝負は1位を狙わないといけない。女子サッカーがW杯で優勝したのに続いて、東海大も世界一を獲得してきてもらいたい」と世界最高の車体ができたことに対する自信を見せた。
なお、これだけの技術を結集した同大のマシンであるが、チーム監督として指揮をとる同大工学部電気電子工学科 木村英樹教授は「海外の強豪大学なども似たような技術などを搭載して挑んでくるし、レースは性能が良ければ勝てるというものでもない。そうした中、バックアップ面も含め、チーム全体で日射量の状況やレースマネジメントの進め方といった細かいことまでカバーするチームとしての全体力を持って勝利を掴みたい」と決して楽なレースにはならないが、優勝を目指した戦いを進めていくとした。