STMicroelectronicsの日本法人であるSTマイクロエレクトロニクスは8月26日、同社のMEMS技術に関する説明会を開き、最近のMEMSアプリケーションの動向などの紹介を行った。
STMicroelectronicsのMEMS技術とその背景動向の説明を行った同社APMグループ グループ・バイスプレジデント 兼 MEMS・センサ・高性能アナログ製品事業部 ジェネラル・マネージャのBenedetto Vigna氏 |
STMicroelectronics APMグループ グループ・バイスプレジデント 兼 MEMS・センサ・高性能アナログ製品事業部 ジェネラル・マネージャのBenedetto Vigna氏は、自動車のエアバッグやタイヤ圧力(TPM)といった分野で採用が始まったMEMSアプリケーションは年々適用領域を拡大させ、90年代の自動車への適用を第1の波、ここ数年のゲーム機やスマートフォンなどに代表されるコンシューマアプリケーションへの適用が第2の波とし、目前に体内に埋め込む形のセンサや投薬システムなどのパーソナライゼーション(Personalization)が第3の波としてやってくると説明し、「新しい用途/アプリケーションを生み出して、そこに我々のMEMS技術を適用させていく」ことを推し進めていることを強調した。
同社がコンシューマ向けMEMS事業に参入したのは2006年。任天堂のWiiのリモコンに採用されたことがきっかけである。その当時のMEMSモーションセンサの売り上げは3000万ドル。2010年にはそれが3億ドルへと成長を果たしたほか、MEMSファウンドリビジネスも2億400万ドルに到達し、コンシューマ向けMEMSではシェアトップに立っているが、「現在200mmウェハのMEMS専用ラインを中心に日産250万個のデバイスが製造されているが、2011年末までにはこれを300万/日まで引き上げるべく投資を行っている」と、さらなる事業拡大に意欲を示す。
この生産能力拡大は、MEMSのさらなる適用アプリケーションが広がりを見せてきていることがあげられる。特に、(1)携帯電話/スマートフォン向け画像補正(安定化)用ジャイロなどの展開、(2)位置情報によるARや3次元タグとの連携、そして(3)生体情報などのリモートモニタリング用途については、将来が期待できるアプリだという。
拡大するMEMSデバイスの適用領域。もっとも第1の波である車載分野に関してはモデルチェンジが数年スパンと長かったりするため、第2の波である民生分野で搭載されるアプリが一気に増えたことで市場としても巨大なものへと成長した |
第2の波であるコンシューマ向けMEMSについては、1パッケージへの集積化による小型・薄型化が求められており、すでに同社でも加速度+ジャイロによる6軸センサモジュールや加速度+地磁気といった複数のセンサを一体化させた製品も提供している。また、新たな分野のMEMSセンサの開発も進めており、地磁気センサ、加速度センサ、ジャイロセンサを組み合わせた測位アプリケーション向けソリューションや気圧センサを用いた携帯型の高度計としての活用が進められている。
そして生体情報と結びつく第3の波は、より小型、低消費電力化されることで実現されるという。具体的には使い捨てのバイオセンサとしてのインシュリンポンプや3Dでの体内状況を見ることができる超音波診断器など、超高性能アナログ技術を組み合わせた人体センサとしての活用のほか、バイオアクチュエータとしても眼圧計測用スマートコンタクトレンズなども実用化に向けた取り組みが進められている。
こうした生体との連動は、まずは皮膚の表面に張り付けたり、インシュリンポンプなどの機器の小型化に用いられる。その次の段階としては皮膚の内部(すでに同社では緑内障の診断用としてSensimedと圧力センサを内蔵した24時間の使い捨てスマートコンタクトレンズを開発したことを発表しているほか、心臓のペースメーカーなども開発している)へと適用されることとなり、そうした各種センサから得られた各種の生体データは、デジタルデータとして医療機関にフィードバック(同社では「Bio-toBit」と表現)され、患者の健康の維持に活用されることとなる。「全世界で医療費の負担は問題となってきている。オムロンは30年前に個人で血圧を測ることができる血圧計を開発したが、今、そうしたデータを個人だけでなくネットワークでさまざまな医療機関とつなげ、活用する時代が来た。そうした際に役に立つのが我々のMEMS技術だ」と、これからますますMEMS技術が重要になってくることを同氏は強調するほか、地域としては日本と韓国が最重要市場になるとする。
これは、自動車、コンシューマ、ヘルスケアいずれの分野においても強いメーカーが多くあり、そうしたメーカーからのフィードバックを受けて製品の開発が進められることも多々あるためで、そうした企業、大学と連携した研究を進めていくことを予定している。
すでに同社は2011年8月に聖アンナ大学院大学(Scuola Superiore Sant'Anna)とバイオ・ロボティクス、スマート・システムおよびマイクロエレクトロニクス分野の研究および革新を目的とする共同研究所「BioRobotics Institute」を設立したばかりで、MEMSはこうした技術の根幹となるという。特に、プロセス技術としては、Siベースの加速度センサの技術をベースとするが、Siにこだわるつもりはなく、同プロセスを各種素材に展開して、その応用先を広げていく計画。上述した緑内障用スマートコンタクトレンズは湾曲したプラスチックレンズの表面にMEMSセンサなどを構築したもので、Si以外の材料とMEMS技術を組み合わせた例となっており、将来的には同社のマイコン技術などと、MEMS、有機素材などを組み合わせた新たなデバイスが生み出される可能性もあるという。
なお、同氏は今後のパーソナライゼーションへのMEMS適用について、「市場への展開については、まだまだ研究をしないといけない分野が多い。そうした意味ではより多くの人、機関、企業と連携し、安全で使い勝手の高いMEMSデバイスの開発を進めていきたい」とするほか、「体内に埋め込むことは心理的な抵抗が強いだろうし、そうした市場がいきなり急激に育つことはなく、皮膚の表面、ぎりぎりのところで目の中に入れるといったところが市場としてまずは成長が進むだろう。しかし、将来的にはロボット技術を応用した義手・義足などとMEMSの連携などを含め、多くの分野に使いたいというニーズが出てくるはずで、そうした研究も含め、将来に向けた取り組みを進めていく」と、MEMSがセンサだけでなく、将来的なアプリケーションを生み出す要素技術であるとの認識を示している。