農業生物資源研究所(生物研)は8月17日、日本のイネとは別系統のアフリカ栽培イネのゲノム塩基配列の主要部分を解読し、データベース(AfRicA DB:African Rice Annotation Database)として公開したことを発表した。同成果は英国の科学雑誌「The Plant Journal」に掲載された。
世界の栽培イネには、「オリザ・サティバ」と「オリザ・グラベリマ」という2系統があり、サティバはアジアを中心に世界中で広く栽培されている。また、サティバはジャポニカ(日本型)とインディカ(インド型)という2グループに大別される。一方グラベリマは強い耐乾性や耐病性、耐虫性の形質を持っているアフリカの一部の国と地域で栽培される固有種で、サティバのようには育種が進んでおらず、現在では食料としての用途は薄れ、儀式などで利用される程度となっている。
しかし、サティバとグラベリマは近縁で、両種を掛け合わせることで、両種の良いところを受け継いだ有力な品種「ネリカ米」も開発されており、アフリカで栽培されるようになっている。こうしたアジアを中心に栽培されている品種を利用してアフリカでイネの品種改良が行われた一方で、グラベリマの特長を利用して、日本のイネの品種改良に応用できる可能性があることから、今回、セネガルで採取された「IRGC104038」という系統のグラベリマのゲノム塩基配列の一部解読を行った。ちなみにサティバについては、2004年にNIASを中心とする国際コンソーシアムにて日本晴というジャポニカ品種の全ゲノム塩基配列が解読されている。
今回解読されたグラベリマの塩基配列量は全ゲノムの2割であるため、全ゲノム塩基配列が決定している日本晴のゲノムを参照して解読を行っており、その結果、総量6900万塩基のグラベリマ塩基配列が明らかになり(日本晴ゲノムは3.8億塩基で、6900万基はその18%に相当)、サティバの全遺伝子のおよそ3分の1に相当する10,080個の遺伝子配列をほぼ解読した。
また、サティバ(日本晴)には存在しない、グラベリマに特有と思われるゲノム領域も合計1270万塩基を得ることに成功しており、これを耐病性遺伝子をもとに推定した結果、200個の候補遺伝子が含まれていることが判明した。
ゲノム解読の結果。第1染色体末端領域のサティバ(日本晴)ゲノム配列と対応するグラベリマゲノム配列を比較。横軸(11k~19k)が日本晴ゲノム。黒線が対応するグラベリマゲノムで解読できた部分。白く抜けているのが今回読めていない部分を表している。緑色の横線は、たんぱく質に翻訳され、機能を持つ遺伝子の領域を示している。「k」はDNAの長さの単位で、1kは1000塩基対長 |
一方、生物のゲノム中には、単純反復配列(SSR)と呼ばれる、2~4塩基の決まった配列が繰り返された配列が存在している。SSRは個体の識別や、育種において遺伝子の位置を特定するための目印(分子マーカー)として用いられており、今回の研究では2451のSSRを設定した。
SSRマーカーの分布の例(1番染色体短腕領域全体、下部のくびれが動原体部分)。高密度でSSRマーカーを設計・配置してあるため、今後の利用価値が高いと考えられる。黒の横縞はSSRマーカーが位置することを示し、密に散在するところでは太線となって見える) |
さらに、ジャポニカ、インディカ、グラベリマの遺伝子解析を行った結果、グラベリマで機能している遺伝子が、ジャポニカやインディカでは機能しなくなっていると思われる遺伝子が8例見つかったという。
グラベリマは多様な系統があることが知られているため、今後はこれらを比較することで、より多くの情報が得られることが期待できる。すでにアメリカの研究グループが、別系統のグラベリマゲノムの解読を行っており、将来、両者のゲノム塩基配列を比較することで、アフリカ固有イネへのさらなる理解が深まると考えられることから、研究チームでは、今回解読したゲノム配列を基盤として、どのような遺伝子がアフリカとアジアのイネを特徴付けているのか、それぞれの種でどのように遺伝子が進化したのか、詳細に理解できるようになると見ている。