国立障害者リハビリテーションセンター研究所(国リハ研)と理化学研究所(理研)は8月16日、ヒト網膜細胞由来の完全な遺伝子の約16万個のクローンを公開したことを発表した。国リハ研から寄託され、理化学研究所バイオリソースセンターではそれらクローンを公開。現在は世界中の研究者が利用できるようになっている。
約16万個の内、39643クローンは末端の塩基配列情報を解析済みで、7067種類の遺伝子から構成されていることが判明。このクローンセットはヒト網膜細胞由来の完全長遺伝子セットとしては世界最大級であり、これまで取得困難だった希少な遺伝子や長いサイズの遺伝子の完全長cDNAを多数含んでいる点が特徴だ。
なお、cDNAとは、ゲノムDNAから転写されたRNAの塩基配列に相補的になるように合成されたDNAのことである。完全長cDNAとは、広義には転写されたRNA全長とまったく同じ長さを有するcDNAのことで、狭義にはたんぱく質翻訳領域のみの全長を持つcDNAのことをいう。
国リハ研では、視覚障害者が最も多く罹患している疾患である網膜色素変性症(色変)について、新規の原因遺伝子候補を探索することを目的としてもうまく細胞で発現している遺伝子の網羅的解析をこれまで実施してきた。世界中で40種類以上の原因遺伝子が報告されているが、日本人患者の原因遺伝子も多様であることが示唆されていることから、それを確かめるためである。
国リハ研所長の加藤誠志氏が独自に開発した「ベクターキャッピング法」と呼ばれる技術を用いて、ヒト網膜色素上皮細胞株「ARPE-19」と、錐体前駆細胞由来のヒトレチノブラストーマ細胞株「Y79」という細胞のそれぞれのmRNAから完全長cDNAライブラリを作製。そのライブラリに含まれるcDNAクローンの塩基配列を実施した結果、網膜細胞で発現している多くの遺伝子を見出せたという次第である。
ARPE-19ライブラリからは約10万クローン、Y79ライブラリからは約9万クローンを単離し、各クローンを96ウェルから384ウェルのプレートにグリセロールストックとして保存。それぞれ約24000クローンの末端部分塩基配列解析を行い、それぞれ20000クローン、冒頭で述べたように合計39643個の完全長cDNAクローンを同定したというわけである。
なお、ARPE-19とY79合わせて19万クローンだが、16万クローンしか公開されていないのは、ライブラリーに含まれる完全長cDNAクローンの割合が83%であるためだ。
今回の公開は、網膜細胞の変成や再生メカニズムの解明のため、ヒト遺伝子の多様性に関する研究を行うための活用を期待するとしている。