北海道大学の研究チームは、近赤外光を露光用光源として、数nmクラスの加工分解能を有する光リソグラフィ技術の開発に成功したことを明らかにした。同露光技術とドライエッチングやリフトオフなどの半導体加工プロセスを組み合わせることで、EUV以降の超微細プロセスの実現が可能となるほか、プラズモン太陽電池などへの応用が期待される金属ナノ構造を光照射面積全域に作製することも可能だという。
同成果は、同大電子科学研究所の上野貢生准教授および三澤弘明教授らの研究チームによるもので、米国物理学会「Applied Physics Letters」に掲載された。
半導体製造プロセスで用いられる光リソグラフィ技術は、光源を短波長化することでプロセスの微細化を実現してきており、32nm/28nm、25nmといった現在の先端プロセスでは波長193nmを用いたArF液浸が用いられているが、次世代露光装置として波長13.4nmのEUVを用いることで、20nm程度まではプロセスの微細化が可能だとされており、1Xnm世代までは何とか量産できるという見込みを半導体ベンダも立てている。しかし、そこから先、数nm世代を実現し、かつ量産のスループットを落とさないで済む露光技術の開発は困難であった。
そうした状況の中、近年では近接場露光技術による半導体製造が注目されるようになってきた。近接場光は、ナノメートルサイズの構造体に局在する伝播しない光で、回折限界よりも小さい領域に光電場が局在化される。しかし、数nmの領域に近接場光を局在化させた場合、深さ方向のプロファイルも数nmとなり、比較的厚いレジスト膜に数nmの加工分解能で深くパターニングすることはできないほか、EUVなどの先端光リソグラフィ技術でも、三角形やチェイン状のナノパターン、あるいはナノギャップパターンなどを高分解能に形成することは困難であった。
金や銀などの金属のナノ構造体は光と相互作用(局在プラズモン共鳴)して、光をある時間閉じ込めたり、ある空間に局在化させたりする光アンテナ効果を示すことが知られている。今回の研究では、この金属ナノ構造に誘起される局在プラズモン共鳴に基づいて、放射モードと結合した散乱成分の光がフォトレジスト膜中を伝播する現象を利用して、数nmの加工分解能でレジストパターンを形成する新しいプラズモンリソグラフィ技術の開発が行われた。
具体的には、従来のように光源を短波長化するのではなく逆に波長が比較的長く通常の大気中でも利用できる近赤外光を用いた。フォトマスクには、近赤外光と強く相互作用する金のナノ構造を配列したガラス基板を採用し、その上に電子線リソグラフィ(EB)によるナノパターニングとスパッタリング(金:厚さ10nm)による金属成膜法を用いて作製した。あらかじめポジ型フォトレジスト(東京応化工業の「TSMRV-90」)を70nmの厚みで成膜した基板に、作製したフォトマスクを密着させ、波長800nmのフェムト秒レーザー(パルス幅100fs、繰り返し82MHz)をフォトレジスト基板側から任意の時間照射することでフォトレジスト基板の露光を行い、専用の現像液で現像後、フォトレジスト基板上にパターニングされた形状を電子顕微鏡により観察した。
作製されたフォトマスクのプラズモン共鳴波長は870nmに存在し、波長800nmのフェムト秒レーザービームを照射した場合、双極子共鳴ピークの短波長側に存在する高次の共鳴モードを励起することになり、多重極子共鳴が誘起される。これにより、プラズモン共鳴に基づいて放射モードと結合した散乱成分の光は、フォトマスクの形状を反映し、フォトマスク形状に依存した光がフォトレジスト中を伝播することになり、今回の研究では、フォトマスク形状を反映した四角い100nm四方のナノパターンをレジストに転写露光されることに成功した。
図1 (a) レジスト基板の露光に用いたフォトマスクの電子顕微鏡像。(b) 今回開発したナノ光リソグラフィ技術により形成したフォトレジストパターンの電子顕微鏡像。(c) 形成したフォトレジストパターンの断面電子顕微鏡像 |
また、レジスト表面はプラズモン共鳴の近接場光成分によって露光されるため、横に広がった断面プロファイルが観察されたが、レジスト表面から基板方向に向かうにしたがって、プラズモン共鳴に基づいて放射モードと結合した散乱成分の光がフォトレジスト膜中を伝播して露光される様子が観察された。
同技術を応用することで、さまざまな形状のナノパターンを形成することが可能となり、例えば三角形パターンを転写露光した場合でも、数nmの分解能でパターンを作製することが可能であることが確認されたほか、ディスクやチェインなどの形状のパターンを作製することも可能であることが確認された。
図3 ナノ光リソグラフィ技術により形成される様々な形状のフォトレジストパターンの電子顕微鏡像。(a)は平均サイズ141.2 nm、サイズのバラつきの標準偏差が4.4nmの三角形のナノパターン、(b)はチェイン形状のナノパターン |
さらに、これで形成したレジストパターンに金をスパッタし、リフトオフプロセスを行うと金のナノ構造を基板上に作製(複製)し、電子顕微鏡で観察したところ、構造サイズのバラつきは、標準偏差で3.8nmで、上野教授らが2006年に報告した100kVの加速電圧を有するEB露光装置にて作製した金ナノ構造のサイズ分布(標準偏差:3.2nm)とほとんど変わらない値を示すことが確認され、同技術を用いることで、金属ナノ構造を数nmの構造サイズのバラつきで作製することが可能であることが示された。
こうした結果から、研究チームでは同技術は構造サイズおよび構造間距離を数nmの分解能で制御してフォトレジストパターンや金属ナノパターンを作製できるため、非接触で高い加工分解能(10nmノード)を有する光露光技術として、応用展開が期待できるとしている。