海洋研究開発機構(JAMSTEC)は8月15日、7月30日から8月14日にかけて実施した有人潜水調査船「しんかい6500」による、「東北地方太平洋沖地震」震源海域の日本海溝陸側斜面における潜航調査の結果を発表した。

今回の調査は、地震による深海生態系への影響、海水中の化学変化、海底の変動を調べるためのもの。調査の結果、三陸海岸東方の日本海溝海域の水深約3200mから5350mにおいて、一連の地震活動において生じたものと予測される海底の亀裂や段差、海底下からの湧水現象に伴うバクテリアマット(バクテリアが大量繁殖してマット状になったもの)、海底変色、ナギナタシロウリガイの生息、ウシナマコ類の高密度生息などが確認された。

今回発見された亀裂の1つが、水深5351mの海底にあるもの。幅、深さ共に1mあり、南北方向に走っていて少なくとも80mは続くという。2006年6月8日に同地域において複数の潜航調査をしんかい6500は行っているが、その際は亀裂はなかったことから、今回の一連の地震で生じたものと推定されている。

亀裂は断層状にあることから、メタンなどを含む湧水現象があることが予想され、一部には白色に変色した部分、バクテリアマットも存在。バクテリアマットが存在する部分は、特に大量のメタンが湧きだしていると予想されている。

また、水深3218mで発見された南北方向の亀裂は、幅は20cmほどで、長さは少なくとも数10m。そこは深いために確認できなかったという。同じエリアでは落ち込みが1mを越えている段差も見つかっている。東側が高くなり、所々崩れているのも確認された。

さらに、水深5348mの海底には、線上に2mほどの長さで形成されたバクテリアマットを発見。直上の海水からは硫化水素臭が著しいことから、メタンを含む湧水がかなりあるものと思われる。そのほか、複数箇所でバクテリアマットが形成されており、海底の環境がかなり変化しているのが見て取れる状況。

一方、ナギナタシロウリガイのコロニーは地震前から存在しており、地震の影響で死滅などはしなかった模様。ナギナタシロウリガイはエラの細胞内にバクテリアを共生させて栄養を得ていることから、逆に硫化水素を必要とする。そのため、メタンなどの湧出には影響を受けなかった模様だ。

そのほか、2006年時点では見られなかったナマコ類が、今回は海底にウシナマコ類が高密度に生息しているのが確認された。ナマコ類は堆積物を食する生物なので、堆積物や周辺の海水など、海底環境の変化が予想される結果となっている。

水深5351mの海底で見つかった、幅、深さ共に1m、南北に80m以上続くというという巨大な亀裂。右下の日時に近い位置に見える白いもやのようなものがバクテリアマット。バクテリアにとって生存しやすい環境であるということは、硫化水素の濃度が濃いということであり、地殻変動の影響でメタンなどの多量湧出が予想される

水深3218mで発見された南北方向に走る亀裂。幅は20cmほどで、長さは少なくとも数10m。幅があまりないため、深さは確認できなかったという。海底がボキリと折れたことを想像させてくれる、生々しい証拠だ