Trident MicrosystemsのCEOであるBami Bastani氏。2011年6月に就任したばかりであるという |
Trident Microsystemsは、同社CEOであるBami Bastani氏の来日に合わせ、同社が注力するコネクテッドホーム向け半導体ソリューション事業に対する取り組みなどの紹介を行った。現在、デジテルテレビ(DTV)の普及が進むが、そのパネル比率は16:9、これが今後、数年で21:9へと変わる可能性が出てきたという。
Tridentはマルチメディア用LSIを提供するファブレス半導体ベンダ。過去にはグラフィックスチップなども手がけていたが、同事業は2003年にXGI Technologyに売却し、マルチメディア系一本に事業を集約、逆に2009年にNXP Semiconductorsのテレビシステム事業およびSTB事業を買収するなど、同事業の強化を図ってきた。
同社が重視している地域はアジア。中でも日本についてCEOのBastani氏は、「どの半導体ベンダにおいても重要な位置づけを持つ地域。特に注目に値するのは、産業界のみならず、国家全体で技術志向であることだ」との見方を示している。そうしたコメントをするのも、同社が技術重視の半導体ベンダであるということも関係しているという。同社の従業員は約1300名、そのうち、本社がある米国に居る社員の数は約10%で、STB向けIP開発やソフトウェアの開発などを行っている。一方、アジア地域の社員数が多く、最大は上海の600名で、独自のIP開発などを行っているという。こうしたアジア地域重視の姿勢は「半導体やエレクトロニクス製品の生産拠点がアジアにあるため」とのことで、そうした社会情勢に併せた体制を構築しているとする。また、欧州にはNXPとの兼ね合いから、アナログやミクスドシグナルなどのIP開発を行う部隊が4拠点に分かれて活動している。
狙うはハイエンド領域での適用
同社はコネクテッドホーム向けソリューションの事業をデジテルTVとSTB向けに分けており、売り上げ比率は2011年第2四半期(2011年4-6月期)はデジタルTV56%、STBが44%とバランスが良く、「TVのデジタル化により、半導体の搭載数が増加し、この分野の市場成長率は2014年までのCAGRで7%」としている。
特にTVで成長が見込めるのは、インターネットへの接続機能や3D対応、フレームレートの100/120Hz化などの特長ある機能部分。一方のSTBのCAGRも7%で、HD対応やIPクライアント対応、HDDレコーダ(DVR)対応なども分野の成長が期待できるという。
そうした分野に向けた同社製品の基盤技術の1つが「動き予測/動き補正(Motion Estimation/Motion Compensation:MEMC)」である。また、リアルタイムでの2D/3D変換では色や形などから画像を認識し2Dから3Dへの変換を行う技術(2D-to-3Dビデオ変換)や超解像、2Dバックライトディミングなども特長ある技術として提供している。
同社が強調する自社の技術優位性。競合各社も採用しているような技術ばかりだが、例えばリアルタイムの2D/3D変換では、色での変換ではなく、オブジェクトをアルゴリズムで抽出し、3Dに変換することで、立体時の違和感を低減するなど、細かな部分でのより快適に見えるような工夫が施されている |
こうした技術を武器に、同社が狙うのはデジタルTVでもミドルハイやハイエンドなコネクテッドデジタルTVやスマートTVと同社が呼ぶカテゴリ。ミドルローやローエンド向け製品も提供しているが、ハイエンド向けには上記の技術および21:9の画面比率に対応できる「TV550」をすでに提供しているほか、2011年下半期にはAndroid対応スマートTV向けSoC「Fusion」の提供が予定されている。FusionはOpenGL 2.0に対応するほか、2チャネル同時HDデコード、映像の振れなどを補正する「Steadyview」、240Hz MEMC技術などが搭載されている。
「DTVは高機能化とは裏腹にコストに対しては非常に厳しくなってきており、機器ベンダとしてはBOMコストの削減は必須となっている。Fusionは1チップでさまざまな機能を搭載しており、コストの低減と高性能化を同時に実現することが可能となる」と同製品がこれからのDTVの要求に応えるデバイスであることを強調する。また、日本のTVベンダの多くは特長ある画作りを実現する手法として独自のSoCを搭載する方向であるが、「1つのトレンドとして、SoCの開発コストの高騰とTVの低価格化圧力のギャップが広がっており、我々のような専業ベンダが提供するチップにも採用のチャンスが出てきた」という。
さらに、「現在はハードウェアよりもソフトウェア、そしてソフトウェアエンジニアの重要性が増してきた。TridentのR&Dスタッフ1000名のうち、半数はソフトウェアエンジニアで、ハードとソフト双方を理解したうえで、将来必要となるソフトの開発を行っている」と、単にハードウェア(開発環境含む)だけでなく、Android対応などの要望にも応えられるだけのエンジニアリング能力を社内に有することで、AmazonやGoogleなどとも一緒に仕事ができるだけの実力をすでに確保しているという。
特に、そうしたソフトの最大の注力点はハードウェア・アブストラクション・レイヤ(HAL)の開発で、これによりOSの種類に依存することなく共通して開発できる仕組みを提供することで、すべてのプラットフォームで同社製品を活用することが可能になるという。
21:9
また同社では次世代のDTVの姿として21:9のシネマスコープ(シネスコ)サイズを実現できるパネルサイズを押し出している。同サイズの液晶テレビは、もともとPhilips Electronicsが2009年に発表、欧州への市場投入を進めてきたもので、同社がPhilipsの流れを汲むNXPと関わりの強いことを考えると、こうした方向を打ち出すのも納得がいく。
ただ、同社は単にアスペクト比率を21:9に対応させるのてはなく、AndroidをTVと融合させることで、ネットワーク端末としても活用することを狙っている。こうしたAndroidのTVへのポーティングに向け、2D/3Dのハードウェア側での処理化やDalvikをハード処理にすることによるシステムの処理速度向上などを同社のソフトエンジニアが担当し、開発を行っているという。また、FusionはMIPSベースのデュアルコアSoCであり、片方のCPUコアでTVを、もう片方でAndroidを駆動させることで、仮にAndroidがクラッシュしても、クリティカルなTV部分はそれに巻き込まれずに、視聴しつづけることができるように共有しているメモリ空間を分ける技術なども採用しているという。
こうして実現された21:9の比率によるTVだが、どういった使い方ができるのか。単なる映画の臨場感を増す、といった使い方のほか、例えば16:9の比率のTV画面とあまった部分にブラウザやTwitterを表示し、TVを見ながら、いわゆる実況を同一画面で行うことができる。これはPCですでに実現できているわけだが、残念ながら50型などのPCはなく(液晶テレビなどにつなげれば別だが)、そうした大きな画面で、というニーズには対応が難しい。
「我々は、TVメーカーなどからしたら単なるSoCベンダ、サプライヤの1つだと思われているが、ソフトを組み合わせて提供することで、これからはトータルシステムプロバイダとして認知してもらえるような取り組みを進めていく。特に、AndroidとTVを組み合わせたいと思っているTVメーカーには、我々が培ってきたノウハウが役に立つはずで、日本でも中長期的な視点でのさまざまな取り組みを考えており、世界的にも大手のTVメーカーと歩調を合わせることで、市場の活性化を図っていければ」と、今後のTV市場に対しての抱負を語った。