京都大学は8月11日、霊長類研究所の研究チームが、チンパンジーもヒトと同様に前頭前野が未熟な状態で誕生してくることを明らかにしたと発表した。今回の成果は、チンパンジーの脳容積の発達を生後6カ月から6歳まで断続的に分析した研究によるもの。研究成果は、日本時間8月11日にCell Pressが出版した「Current Biology」に掲載された。

意志決定、自己意識、創造性など、ヒトがヒトたり得る認知機能の基礎を担っている重要な部位が前頭前野だ。また、ヒトが進化してきた過程において、最も著しく変化した要素の1つが、前頭前野皮質の拡大である。また、ヒトの場合は生後に大脳が発達することがわかっており(その中で、前頭前野は最もゆっくりと発達していく部位の1つ)、そうした脳における特徴はこれまでヒト特有のものと思われていた。

しかし、今回研究チームが磁気共鳴画像法(MRI)を用いて、3個体の子どもチンパンジーを対象に、ヒトの乳児期に相当する6カ月から、思春期前に相当する6歳までの脳の発達過程を断続的に調査したところ、前頭前野の白質容積の発達が判明したというわけである。

前頭前野の白質容積が生後も発達するということは、脳の可塑性の期間延長ももたらすということを示す。つまり、複雑な社会相互作用、知識、技術などを経験によって発達させる機会を、我々ヒトだけでなく、チンパンジーも前頭前野の発達によって与えられている可能性が高いということだ。ヒトとチンパンジーは神経連結や脳機能の発達させるため、生後の経験による影響をより受けやすくしてやる必要があるということもいえる。その例として、ヒトとチンパンジーはほかの霊長類とは異なり、乳幼児と親の間に微笑みや見つめ合いによる親密な関係を楽しむことができることが挙げられている。

なお、ヒトとチンパンジーのみが未発達な状態の前頭前野のままで生まれてくるということは、ヒトとチンパンジーが共通の先祖の頃から存在するものである可能性も示唆される。また、ヒトとチンパンジーにしか見られないということは、両者がそれだけ現生種の中では近縁である証拠ともいえるようだ。進化的に離れたマカクザルの脳発達との比較も行われ、ヒトとチンパンジーはマカクザルとは対照的であることも今回の研究で得られている。

一方で、今回の研究では、ヒトとチンパンジーの大きな違いも判明。ヒトの乳幼児では前頭前野の白質容積が劇的に増加していくが、チンパンジーの乳幼児では著しい増加傾向は示さなかったのである。ヒトにおける前頭前野の劇的な拡大は、ヒトのみの特徴である複雑な言語機能や複雑な社会相互作用の発達に寄与しているとが推測される結果でもあった。

図1「チンパンジーにおける前頭前野の発達過程」

図2「早期乳児期から子ども期までの前頭前野領域と非前頭前野領域における生体対する白質相対容積比」