東京大学(東大)と国立天文台による研究チームは、すばる望遠鏡を用いたパノラマ観測により、40億年前の宇宙にある巨大な銀河団の周辺に、赤く輝く星形成銀河を多数発見したことを発表した。
同成果は東大大学院理学系研究科/国立天文台光赤外研究部・日本学術振興会特別研究員の小山佑世氏、国立天文台ハワイ観測所・准教授の児玉忠恭氏、国立天文台ハワイ観測所・サポートアストロノマーの仲田史明氏、東大大学院理学系研究科・准教授の嶋作一大氏、東大大学院理学系研究科・教授の岡村定矩氏らによるもので、米国の学術雑誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
銀河はその誕生から、互いの引力で引き合い「銀河群」とよばれる小さな銀河集団や「銀河団」とよばれる大きな集団を作りあげてきたが、ただ群れ集まるのではなく、群れを作りながら、銀河自身もその性質を変化させてきたと考えられている。例えば、銀河団のような「銀河の大都会」に住む銀河は、そのほとんどが楕円銀河やレンズ状銀河だが、大きな群れに属さない孤独な銀河は、その多くが渦巻銀河である。
そうした銀河世界のルールは、いつどのように確立したのかは謎であり、多くの研究者が遠くの宇宙の銀河団を観測することで、過去の宇宙で銀河が群れ集まる様子やどのように進化してきたのかを検証しようという試みを行っている。
同研究チームは今回、おおぐま座の方向にある約40億年前の宇宙の巨大な銀河団「CL0939+4713」をターゲットに選び、すばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam」を用いて、銀河の星形成活動を捉える優良な指標とされている水素の"Hα線"の観測を行った。
Hα線フィルタを装着した場合と、装着しない画像を比較した結果、フィルタを装着したほうの画像で特に明るく輝いている銀河が400個以上発見。この特殊フィルタを通して明るく見える銀河は、Hα線が強く出ている銀河であり、銀河の中で新しい星がたくさん生まれている「星形成銀河」を意味している。
こうしたHα線で輝く銀河が見つかることは、予想されていたが、研究チームはさらにその中に、普通の星形成銀河では考えにくい、「赤い色」の星形成銀河が数多く存在していることを確認した。こうした赤く燃えるような銀河は、銀河団の近くにはほとんど存在せず、むしろ銀河団から遠く離れた、複数の「銀河群」領域に集中していることも明らかとなった。
この"赤く燃ゆる銀河"について、どういう銀河で、何故銀河群を好んで棲息しているのかについてはまだ不明ながら、研究チームでは「赤く燃ゆる銀河が、強いHα線を発しているということは、銀河の内部ではさかんに星形成が行われているということを示しており、若くて青い星がたくさんいるはずなのに、銀河全体が赤く見えるのは、銀河の中の"ダスト"が影響している可能性が考えられる」としている。
もう1つの事柄として、「赤く燃ゆる銀河」が多数見つかった銀河群たちは、いずれは銀河団に落ちてゆく運命にあり、「今回の研究成果のもっとも大切なポイントは、大きな銀河団に吸収される前段階にある、小さな銀河群という環境下で、銀河がすでにその性質を大きく変えようとしていた、という点にある」と研究チームでは説明している。
また、研究チームでは過去の研究でも、この40億年前の宇宙の銀河群領域が調べており、その時は、星形成活動を完了して赤い色を示す「年寄り銀河」が、銀河群環境で急に増え始めるということを確認していた。この「年寄り銀河」の増える場所が、今回の研究で見つかった「赤く燃ゆる銀河」の集中領域と見事に一致しており、赤く燃ゆる銀河は、銀河が星形成をさかんに行う若い段階から、年老いた段階へとうつってゆく、ちょうど「人生の過渡期」にある銀河だと解釈することができることから、「"人生の過渡期"にある銀河が、銀河群にもっとも多く存在していたということは、少なくとも今回調査した40億年前の宇宙において、銀河群という環境が銀河進化の鍵を握る重要な場所であったということを意味している」とも述べている。
なお、同研究チームでは、今回発見した「赤く燃ゆる銀河」が現れる物理的要因を解明するための観測をすでに計画しており、この銀河の起源が解明されれば、銀河の進化についての理解が進むものとの期待を示している。