住友電気工業(住友電工)は、逆浸透法による海水淡水化の前処理において、RO膜(逆浸透膜)の透水性能を低下(ファウリング)させる生体外分泌高分子粒子(TEP)を効率よく除去できるTEP Trap膜(TT膜)と、TT膜が捕捉したTEPを排出する洗浄機構を組み込んだTT装置を開発したことを発表した。
世界的な水不足から、エネルギー効率に優れる、RO膜を用いた逆浸透法による海水淡水化への関心が高まっている。逆浸透法による海水淡水化は、前処理として、海水に含まれる微生物などの微粒子を除去した後、RO膜により塩分を分離し真水を得るもので、前処理には、砂濾過やUF膜(限外濾過膜)・MF膜(精密濾過膜)などによる濾過が行われている。
海水中に多量に含まれるゼリー状のTEPは砂濾過では除去できず、RO膜に付着すると、粘着して取れにくくなり、さらに細菌繁殖の基となってバイオフィルムが形成され、ファウリングを引き起こす。UF膜やMF膜ではTEP除去が可能だが、膜に付着するTEPにより流量が大幅に低下するため、大きな面積の膜が必要となり、造水コスト上昇の要因になっていた。
今回同社が開発したTT膜は、独自材料であるPTFE製延伸膜「ポアフロン」技術を活用して開発された膜で、独特のフィブリル構造によりTEPを絡め取る仕組みにより、膜表面が閉塞しにくく、10m/日とMF膜比で約10倍の流量での濾過が可能だという。なお、TEPの除去は処理前後の定量分析により検証がなされたと同社では説明している。
また、TT膜で海水を濾過すると、RO膜への供給水として十分な水質である、SDI 2.0~3.0の清浄な前処理水を得ることができるほか、TT膜濾過後に、UF膜又はMF膜濾過を行うと、さらに高水質のSDI1.0~2.0の前処理水を得ることができるようになるが、この場合においても、TT膜濾過により、MF膜濾過での流量が約2倍に向上するため、UF・MF膜単独の前処理に比べて総膜面積の40%削減が可能だという。
さらに、TT膜が捕捉したTEPは、独自の物理洗浄を組み合わせた逆洗浄機構を活用すること出、効率良く排出され、高流量とTEP除去性能を維持することが可能だ。加えて、物理洗浄との組み合わせることで、薬品使用量は、逆洗浄で毎回薬品を注入する従来方法と比べて半減できるという。
これらの性能から、同社ではTEP除去に加え、高流量での濾過が可能であることから従来のUF膜・MF膜と比べ膜面積を削減でき、UF・MF膜単独の前処理に比べ処理コストをほぼ半減できるものと見込んでおり、今後も実証実験を進め、2012年度に市場投入をする計画としている。
なお、TT膜およびTT装置は、東京海洋大学の協力を得て、同大学臨海実験実習所で開発を進め、またTT膜のTEP除去メカニズムと理論に関しては神戸大学大学院工学研究科応用化学専攻 松山秀人教授に、海水処理の試験プラントでの実証実験に関しては東芝の協力を得て進めたものだという。