「箱ウリベンダー」から「ソリューションベンダー」への転換を標榜しているデル。その戦略を具現化すべく、同社がこれまで製品を提供していなかった分野の企業を次々と買収している。今回は、グローバルでSMBビジネスを統括する、米国デル グローバル コンシューマー、スモール & ミディアムビジネス プレジデントのスティーブ・フェリス氏に、SMBビジネスとしてはどのような形でソリューションビジネスに取り組んでいくのかについて聞いた。

米国デル グローバル コンシューマー、スモール & ミディアムビジネス プレジデント スティーブ・フェリス氏

SMBビジネスが注力する4つの分野

フェリス氏は、SMBビジネスがソリューションビジネスに取り組むうえで重きを置いている4つの分野について説明した。いずれも、顧客の声に耳を傾けることから見えてきた、顧客が抱える課題である。

4つの分野とは、「情報管理」「セキュリティ」「システム管理」「クラウドコンピューティングと仮想化」だ。「中小企業では現在、『情報をいかに効率よく管理するか』『ビジネスを拡大していくうえで、システムをいかに適切に管理するか』という課題を抱えている。システム管理においては、ソフトウェアやハードウェアといった資産を正確に把握したうえで、最新の情報に保つ必要がある。また、中小企業がグローバル化を進めるにあたっては、クラウドや仮想化が不可欠」と、同氏は語る。

同氏は、これまで行った買収がSMBビジネスにおいてどのような意義があるのかなど、各分野における具体的な取り組みを教えてくれた。

情報管理分野のソリューション中心となる製品はストレージであるため、買収したEquallogicとCompellentの製品をミッドマーケット向けに最適化を行い、SMBビジネスだけでも200人のエキスパートを増やしている。システム管理分野では、中小企業に対しシステム管理用アプライアンスを提供するKACEを買収したほか、セキュリティ分野では、トレンドマイクロやジュニパーネットワークスと提携を図るとともに、セキュリティサービスベンダーのSecureWorksの買収が行われた。クラウド分野における買収としては、Boomiが挙げられる。同氏は、Boomiの買収理由について、「中小企業では、複数のクラウドサービスを利用しているが、サービス間のデータ連携が課題となっている。それを解決するのがBoomiの技術」と説明する。仮想化については、サーバ/ネットワーク/ストレージを、仮想サーバ25台から50台の環境に最適化した形でパッケージとして提供している。

「情報管理、セキュリティ、システム管理、クラウド、仮想化と分けて説明を行ったが、各分野の製品をバラバラに提供するつもりはない。すべてをバンドルしてソリューションとして売っていく」。

買収した企業をうまく統合する秘訣とは?

ざっと聞いただけでも、片手を超える買収企業が話に上り、同社の精力的な買収にあらためて驚く。一般に、2社の合併だけでも、さまざまなカルチャーが異なり難しいと言われている。デルはどうやって買収した企業の統合を実現しているのだろうか?

フェリス氏は、「買収した企業の統合が成功するかどうかのカギはダイレクトモデルにある」と即答した。

「デルはもともと製品を直接販売するダイレクトモデルを用いているため、買収した企業の製品も即座に販売する体制を整えることができる。しかし、チャネルパートナー経由で製品を販売しているベンダーの場合、パートナー探しから行わなければならず、実際に製品を販売できるようになるまでに時間がかかってしまう」

また、買収した企業のテクノロジーはそのまま生かしつつ、販売は同社のルートを用いていることも良い結果につながっているという。「実際、Equallogicの買収した年の売上は1億だったが、買収から3年たった現在の売上は10億にまで伸びている。同様に、1年半前に買収したKACEの売上も6倍に増えている。これは、われわれの買収戦略が成功している証拠」と同氏。

今後どのようなベンダーを買収するのかは当然、教えてもらえなかったが、4つの分野の拡大に必要なベンダーが見つかれば買収していくという。デルの買収はまだまだ続きそうだ。

日本企業はもっと最新技術を取り入れて

日本市場に対する見解についても聞いてみた。フェリス氏は今回の来日で国内の顧客企業と意見交換を行ったそうだが、その際、多くの企業から同社の"ソリューション志向"について賛同を得られたそうだ。「サービス、システム管理、サイト管理など、もっとソリューションを提供してほしいといった意見も受けるなど、われわれに対する大きな期待を感じた」と同氏。

ただ同氏は、「日本市場は他の国と比べてユニークな面があるのも事実。例えば、仮想化やクラウドに対する認知度は高いにもかかわらず、導入は進んでいなかった。しかし、ここにきて、急速に仮想化やクラウドの導入が増えている」と指摘する。

また、日本デルは7月に代表取締役がジム・メリット氏から郡信一郎氏に交代している。郡氏に対し、どのような期待をしているかについて尋ねたところ、「従業員の育成など、顧客が当社のソリューションビジネスに満足できるよう、手を打ってもらいたいと思っている。また、デルがソリューションベンダーとして何ができるかをアピールしてもらいたい」と教えてくれた。

同氏は加えて、日本企業がクオリティに厳しいことを踏まえてか、「当社の製品のクオリティは改善を重ねており、今では創業以来、最高レベルのクオリティに達している」」と、同社製品のクオリティについてアピールした。

最後に、日本企業に対するアドバイスを聞いたところ、次のような答えが返ってきた。「もっと最新のテクノロジーを導入したほうがよい。ビジネスのスピードが増すことで、リターンも大きくなる。また、生産性も向上するため、ビジネスも成功するはずだ。デルなら、新たなテクノロジーを導入するにあたって、既存のシステムの信頼性を損なうことなく実現できる」

スピード感を持ったビジネスの成功は、同社が買収した企業のビジネスを着々と軌道に乗せて収益を増やしていることからも見て取れるだろう。震災後のビジネスをいち早く立て直したいという中小企業にとって、デルの提案は有用かもしれない。