九州大学(九大)生体防御医研究所の鈴木教授らのグループは、大阪大学(阪大)の森正樹教授(九州大学客員教授)らのグループと共同して、がん抑制遺伝子として重要なp53遺伝子を制御する分子「PICT1」を発見し、その分子機序を明らかにした。同成果は米国の科学雑誌「Nature Medicine」に掲載された。
p53遺伝子などの 「がん抑制遺伝子」は、がん細胞を 自爆死させたり 、がん細胞の増殖を防ぐ役割を果たしている。これまでに、放射線照後のDNA障害やがん遺伝子の過剰発現によって、p53遺伝子が活性化されることが知られていたが、近年これらに加え、リボソーム形成を標的とする薬剤などによる核小体ストレス経路刺激によってもp53が活性化されることが知られてた。
しかし、その経路の全貌は未だ不明のままであるほか、これまでに染色体19番目長腕13番目の領域(19q13)が欠損したがんは、予後が圧倒的に良いことから、この領域に存在するがん予後に関わる遺伝子が長年検索されてきたものの、未だ不明なままであった。
研究グループは、実験により、以下の事項を発見したという。
- 染色体19q13に存在する分子PICT1は、核小体においてリボソームたんぱく質L11(RPL11)と結合し、RPL11を核小体に引き留める作用をする
- PICT1を欠損すると核小体にあるRPL11が核小体の外の核質に移動して核小体ストレス機構が作動し、外に出たRPL11は同じ核質内にいるMDM2と結合して、MDM2の機能を阻害し、これによってp53pが活性化される(PICT1が存在→RPL11と結合→RPL11が核小体内にとどまる。一方、PICT1が欠損→RPL11が核小体の外に出る→核小体ストレス起動→RPL11はMDM2と結合→MDM2機能低下→p53活性化)
さらに、PICT1が欠損すると、p53が活性化されて適切な個体発生や細胞生存が不可能になること、PICT1の発現を抑制したがん細胞株ではp53が活性化されて、がんの進展が抑制されること、そしてPICT1の発現が低下した ヒトがん症例では生命予後(5年生存率)が良好であることなどを明らかにした。
今回の発見により、PICT1が個体発生や腫瘍進展に重要であることが明らかになったほか、がん抑制遺伝子の中でも重要なp53遺伝子の制御機構の一端が明らかとなった。そのため、今後は摘出がん組織におけるPICT1の発現量を測定することで、予後予測が可能になることが期待されると研究グループでは説明しているほか、今後、PICT1とRPL11との結合を阻害する薬剤やPICT1の発現を抑制する薬剤の発現を探索することで、新たながん治療薬が生れる可能性がでてくるとしている。