東京慈恵会医科大学の並木禎尚講師らの研究グループは、異分野技術の融合により、これまで磁気的に送達が困難であった水溶性薬剤を中空磁性カプセルに密封することで、水溶性薬剤の送達を磁力で制御できるがん治療用ドラッグデリバリシステム(DDS)を開発した。開発した中空磁性カプセルは、磁性ナノ粒子を用いる従来技術と比べて5倍以上の薬剤を搭載することが可能で抗がん剤投与量を大幅に削減することが期待されるという。同成果は米国の科学誌「Accounts of Chemical Research」電子版に掲載された。
進行がんの治療法として最も普及している抗がん剤は、通常の薬剤とは異なり、治療効果を発揮する薬剤濃度と、中毒症状が発生する薬剤濃度とが近接する特徴を持っているため、治療効果の向上を目指して抗がん剤の投与量を増やすと、治療の継続を妨げ、時には死を招く、有害な副作用が起こり易い問題があり、この「がん病巣における薬剤濃度の上昇」と「正常組織での薬剤分布の低減」による問題の克服を目指したDDS開発が各所で進められているが、さまざまな課題が残されているのが現状である。
従来の磁性ナノ粒子には、水溶性抗がん剤の「粒子内部への密封」、「薬剤搭載スペースの確保」が難しいといった課題が存在していたが、今回研究グループでは、(1)薬剤が自由に出入りできる網目状の隙間、(2)大量の薬剤搭載スペースをもつ「中空磁性カプセル」を開発することで、これらの課題の克服を目指した。
実際に内部に水溶性抗がん剤を密封し、磁気誘導したところ、ヒトがん培養細胞株において磁性カプセルを用いない場合と比較して、抗がん剤単体の100倍以上の抗腫瘍効果を発揮したことが確認されたほか、薬剤搭載率は、中空スペースを持たない従来型磁性ナノ粒子の5倍以上を達成したという。
研究グループでは今回の技術に対し、中空磁性カプセルの薬剤搭載率が50%以上であること、磁力による磁性カプセルの標的病巣への誘導効果が期待されることより、将来的には、抗がん剤の投与量を1/10以下に低減できる可能性があるとしており、今後、サイズの最適化などを行い、動物モデルでの治療効果の検証を進めていくほか、中空磁性カプセルの性能をさらに高めることで、「からだにやさしく、良く効く」がん治療を目指したDDSの開発に取り組んでいくとしている。