名古屋大学大学院理学研究科の松岡良樹 特任助教を中心とする、名古屋大学と東京大学の共同研究グループは、宇宙の真の明るさを計測することに成功したことを発表した。同成果は、7月14日付(米国東部時間)の米国科学誌「The Astrophysical Journal」(電子版)に掲載される。

宇宙がどれほどの可視光に満ちているのか、可視光を放つ天体が宇宙にどれだけ存在するのかという問題に対し、地上あるいは人工衛星から観測を行う場合、地球大気の放射や黄道光が夜でも見かけ上あまりにも明るく、微弱な宇宙空間の明るさを測定するためには致命的な障害となっていた。

そこで、研究グループは、そうした大気の放射や黄道光の邪魔を受けずに宇宙空間の真の明るさを計測するためには、地球や太陽から遠く離れた地点で観測を行うことが必要と考え、米国航空宇宙局(NASA)が打ち上げた惑星探査機パイオニア10号および同11号の天文観測データを基に研究を行った。

パイオニアによる観測イメージ(画像提供:松岡良樹 名古屋大学 特任助教)

宇宙の真の明るさを測るためには、地球大気の放射や黄道光などの影響を除かないと難しい(背景の宇宙の画像:(C) R. Williams (STScI), the Hubble Deep Field Team and NASA)

パイオニア10・11号が火星以遠で見た宇宙の明るさ

パイオニア10・11方は、1970年代に火星-木星軌道間を飛行中、搭載された可視光観測装置によって空の明るさを継続的に測定を行っており、そのデータは主に黄道光の研究に用いられた後、1985年以降では、ほとんど用いられることがなかった。研究グループは、このデータを、現在の天文学における知識とデータ、解析技術を用いることで再分析を実施した。

パイオニア10・11号が火星以遠で見た空の様子を再現し、天の川銀河の星々のわずかな光を取り除く作業を実施、さまざまな空の方向において、残った光の明るさと、その方向に存在する星間塵のエネルギーを比べた。その結果、星間塵が増えるほど光が強くなる傾向が見られ、これらの塵も光を放っていると結論することができたという。逆に星間塵がゼロになった所での明るさは、天の川銀河内部のすべての光を取り去った後の空の明るさを表しており、これが宇宙空間の真の明るさ(宇宙可視光背景放射)となるという。

さらに研究グループではこうした宇宙空間の明るさは、全宇宙に存在する、可視光を放つすべての天体が元となっているが、多くの銀河および無数の星々からの光だけで、この明るさが説明できるかを検討、ハッブル宇宙望遠鏡による高精度観測で発見されたすべての銀河からの光の総和と、今回測定された宇宙の明るさとの比較を行った。その結果、両者がほぼ(誤差の範囲内で)等しいことが判明したという。

星間塵の分布イメージ((C)NASA/JPL-Caltech)

可視光の明るさと天の川銀河に漂う星間塵のエネルギーの相関関係

これは、宇宙の闇に可視光を放つ未知天体が潜む余地は小さいことを意味しており、結果として宇宙に満ちている可視光の起源を、人類がすでにほぼすべて解き明かしてしまったことを示すものとなる。また、副次的には、正体は不明ながら、重力を介して周囲に強い影響を及ぼす謎の物質「暗黒物質」が宇宙には大量の存在するとされるが、これらの物質は非常に微弱なレベルでも光を放っていないこととなり、まさに光では見えない暗黒の物質であることが示されたこととなる。

今回の成果により宇宙の闇に可視光を放つ未知天体が潜む余地は小さいということが示されたこととなる((C) R. Williams (STScI), the Hubble Deep Field team, NASA、S.Beckwith (STScI),the Hubble Ultra Deep Field team)

なお、研究グループでは、「今回の研究による、宇宙に満ちる可視光の起源を、人類はすでにほぼすべて解き明かしているという結論が、1つの終着点に辿り着いたことを明示したことになるが、これが土台となり、銀河と暗黒物質、そしてそれを含む宇宙全体の姿を解明するための研究への発展につながることが期待される」とコメントしている。