日立製作所は7月4日、開発を進めていた次世代石炭火力発電向けガスタービンクリーン燃焼技術において、同技術を用いた試作燃焼器がNOx(窒素酸化物)の発生量を環境規制値以下に抑える見通しを得たと発表した。

同社が開発している技術は、二酸化炭素回収機能付石炭ガス化複合発電(CCS-IGCC)のNOx排出量を低減するとともに、高濃度の水素を含む燃料を安定して燃焼する要素技術。これは、2008年から同社が参画している新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のゼロエミッション石炭火力技術開発プロジェクトで開発を行っているもので、2012年度までに広範囲の水素濃度燃料に対して、同一構造のバーナーで低NOx燃焼させる技術の確立を目指している。

CCS-IGCCにおける課題

多孔同軸噴流バーナーの特徴

同技術は、燃料および燃焼用空気を噴出する同軸噴流バーナーの燃料ノイズの形状と位置を工夫し、多数組み合わせることで、燃料と空気を急速に混合して反応させ、一定の位置に浮上火炎を形成。火炎温度を均一化することで、窒素などの希釈剤を用いずにNOxの発生を抑えることが可能になるという。

高水素濃度の燃料と空気を安全に混合させる「急速混合」技術では、バーナーの壁状部材に形成した空気孔と同軸に配置した燃料ノズルの形状と位置を工夫することで、空気と燃料が混在する空間を限定するとともに、同軸噴流が燃焼室に噴出した際に小さな渦が急速に大きく変形することを利用して混合。水素濃度が変化しても、燃料と空気を安全に混合することができる。

急速混合技術の概要

また、バーナーから浮上した火炎を安定に保持する「浮上火炎」技術では、同軸噴流バートナーを多数組み合わせて、その噴出方向を調整することで、バーナーから離れた一定の空間に、浮上火炎を安定に保持。燃料と空気が十分に混ざり合うバーナーから離れた位置で、火炎を発生させ、構造物から火炎が離れているため構造物温度上昇を防ぐことができ、信頼性を得ることができる。

浮上火炎技術の概要

さらに、試作燃焼器では、1つの燃焼器で90%のCO2を回収した場合に相当する高濃度(80%以上)から、CO2回収を行わない場合に相当する低濃度(30%弱)までの水素含有燃料を低NOxで希釈剤なしに燃焼できるため、燃料の水素濃度に応じた複数の燃焼器が不要になり、設備投資を抑制することができるという。

研究開発本部日立研究所エネルギー・環境研究センタガスタービン研究部 部長の圓島信也氏は、「燃料の主成分である水素は反応性が高く、火炎に高温部が発生し、2000度近くまで高まるため、高温部からのNOx発生を抑制する。よって、希釈材を噴射し、1500度程度まで高温部を冷却する必要がある点が、CCS-IGCCにおける課題。新技術では、希釈剤を使わずに温度を引き下げることができる」と説明した。

さらに、電力システム社火力事業部事業主管の保泉真一氏は、「IGCCの商用化は、2016年度以降に中国電力とJPOWERとのジョイントベンチャーの中に参画して実証機を稼働させ、それ以降を目指すことになる」と語った。ここではH-25の拡張したガスタービンを使用するという。

日立製作所研究開発本部日立研究所 エネルギー・環境研究センタ センタ長の小林啓信氏は、「『日立の環境ビジョン』において、この技術は地球温暖化の防止に寄与する。燃料と空気が混ざって燃焼するという基本的原理に立ち戻りながら、革新的な技術として開発したもので、安定した燃焼と低NOx燃焼を実現する。商用化に向けては、スケールアップが大きな課題となる」とした。

日立研究所 エネルギー・環境研究センタ ガスタービン研究部 部長 圓島信也氏

日立製作所 電力システム社 火力事業部 事業主管 保泉真一氏

日立研究所 エネルギー・環境研究センタ センタ長 小林啓信氏

なお、同社の2010年度の電力システム事業の売上高は8,132億円。そのうち、火力事業は60%を占めており、原子力事業の20%、自然エネルギー事業などの20%を大きく上回っている。

火力事業では、2010年度に4,600億円の事業規模を、2015年度には6,500億円にまで拡大する計画を掲げており、2015年度の電力システム事業が掲げた1兆1,000億円の売上計画の中でも成長を担う事業となっている。ガスタービン事業の拡大、環境装置事業の拡大といった戦略製品の事業展開が、火力事業の成長戦略の柱となっている。

さらに、東日本大震災への対応強化として、被災火力発電および休止火力発電の早期立ち上げ、夏季電力供給不足解消に向けた緊急電源供給のほか、グローバル市場への積極展開として、高効率石炭火力事業のグルーバル展開強化、成長市場での現地深化による事業拡大を推進する考えを示している。

ガスタービンにおいては、ヘビーデューティー型でトップクラスの性能を誇るH-25で年間30台以上の受注を目標にするほか、ヘビーデューティー型2軸構造ガスタービンとして世界最大容量機であるH-80を短期間で開発。高炉ガス焚き設備市場への参入も図る予定だ。さらに、大型GTCC(ガスタービン複合発電)においては、GEとの協調により高信頼性、高運用性のガスタービンを採用した事業展開を強化するとしている。

一方同社は、2025年度に1億トンのCO2排出量抑制貢献を目指す環境ビジョンを掲げており、その中で発電分野でのCO2排出量抑制貢献が70%を占めている。発電効率を高め、より少ない燃料で多くの電気を作る技術とCO2排出を抑制する技術の開発に取り組んでおり、今回の技術もその1つと位置づけられている。