宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、次期ロケットエンジンに向けた「LE-X エンジンの研究開発」において、ロケットエンジン全体の高精度流体解析の実施に成功したことを発表した。
新規ロケットエンジン開発においてはエンジン性能の高精度の予測と信頼性確保が最重要課題の1つであり、これらの開発技術を獲得するためにJAXAでは「LE-Xエンジン」の技術実証を進めてきた。今回の成果はその一環としてJAXAが保有するスーパーコンピュータ「JSS」を活用し、LE-Xエンジンの数値流体解析によるエンジン全体の高精度コンピュータシミュレーションを実施、数年後に予定されているエンジン試験に先立ってエンジン性能確認を実施したというもの。
ロケットエンジンでは高い性能を発揮するために推進剤に極低温の液体酸素(-183℃)と液体水素(-253℃)を用いるが、これらはポンプで昇圧した後、液体酸素は燃焼器に流入し、液体水素については、そのほとんどは燃焼器に流入して推力となるが、一部は燃焼器周りを冷却してからポンプを駆動するガスとして使用される。エンジン内部では、水素は液体、超臨界状態、気体の3つの異なる状態で存在することから、既存の解析技術でエンジン全体の解析を実施することは極めて困難であった。このため、従来は個々の部品単位での解析を実施することで性能評価を実施し、エンジン全体の性能評価は開発終盤のエンジン試験にて行っていたが、JAXA情報・計算工学センターでは統合解析に必要な解析技術について研究開発を進め、これらの技術を統合することで、今回、エンジン全体の作動状況をJAXAスーパーコンピュータ「JSS」上で再現することに成功したという。
図1 LE-Xエンジンと配管系統図 (液体酸素は青い配管に従い燃焼器に流入し、液体水素については赤い配管に従って、そのほとんどは燃焼器に流入して推力となるが、一部は燃焼器周りを冷却してからポンプを駆動するガスとして使用される) |
シミュレーション上のエンジン全体の温度分布を見ると、エンジン周囲の冷却通路で温度が上昇し、適切に冷却が出来ていることがわかるほか、万一ポンプ部品が破断した際の危険領域分布なども見ることが可能であり、エンジンにトラブルが発生した場合の危険領域の予測を効果的に評価することも可能となっている。
このように、今回開発された解析技術はエンジン開発リスク低減だけでなく、トラブル発生時の挙動予測評価などにも適用可能なため、今後の高効率・高信頼性なロケットエンジンの研究開発において燃焼試験に代わるもう1つの試験方法として期待されるとJAXAでは説明している。