三菱電機 執行役社長の山西健一郎氏

三菱電機は6月23日、同社の2011年度(2011年4月~2012年3月)の経営戦略を発表した。

登壇した同社執行役社長の山西健一郎氏はまず、3月11日に発生した東日本大震災の2011年度にかかるインパクトを説明。通期業績予想は売上高が3兆7700億円と微増だが、営業利益は上半期でマイナス600億円、通期でもマイナス500億円の影響があるとし、最終的には前年度比微減の2300億円、営業利益率も同0.3ポイント減の6.1%としたほか、税引き前純利益も同微減の2000億円とし、純利益もほぼ横ばいの1250億円とした。

三菱電機の2010年度までの業績推移と2011年度通期業績見通し

セグメント別では、重電システムは前年度に続き好調を維持し、産業メカトロニクスも増収となるが、営業利益は自動車関連が代替製品などの手配で減益になるとの見方を示した。また、情報通信は宇宙関連の受注増で増収増益となるほか、電子デバイスもパワー半導体の好調により増収増益、家庭電器もエコポイントがなくなった影響を受けながらも増収増益との見方を示した。

セグメント別の業績見通し

山西氏は2011年度の戦略として「成長市場に重点を置いて、事業を行っていく」とし、10個ある同社の事業本部のすべてが、「環境・エネルギー」もしくは「社会インフラシステム」のどちらか最低でも1つに関与し、それをグローバルに推進していくという方向性を示した。

三菱電機の成長戦略の方向性。すべての事業本部が2つの分野に何かしら関与し、それをグローバルに推進していくことを目指す

また、強い事業をグローバルでより強く育てていく指針も示した。具体的には半導体でいえばパワー半導体、宇宙システムであれば人工衛星などで、これをアジア、特に中国、インドなどの成長率の高い地域に向けて攻勢を仕掛けていくことを短期的な目的としつつ、中期的には、強い事業の継続的強化に向けた技術開発として、「スマートコミュニティ/スマートグリッド」の進展、「SiCパワーデバイス」へのパワー半導体のシフト、「EV/HEV向け自動車用機器」として従来のIPUだけでなくモータなども含めた開発、量産化を図っていくことを強調した。

成長戦略の方向性としては、短期的には各事業の強い部門をより強くし、グローバルに展開していくほか、中期的な方策としては、次のビジネスに向けた新規技術の開発を行い、市場優位性の確保を狙うというものだが、単に技術(種)だけを伸ばすのではなく、それを売るだけの営業力(畑)も同時に育てていく方針で、そうした方針にマッチする企業があればM&Aも行っていくとする

各事業における個別の戦略

この3つの強い事業の継続的強化について、同氏は、「イノベーションのジレンマに陥らないようにした」との見方を披露。同社のパワー半導体はSiでは強いが、まだ市場も出来上がっていないSiCも、市場ができる前に強みとして参入できるように開発を行っているとし、2010年度はエアコンにSiCとSIのハイブリッド素子を搭載しただ、2012年度までにフルSiCの素子をエアコンに搭載するほか、2011年度末までに電車向けSiC素子を開発し、2012年度中にFA機器向けSiC素子の開発を終える予定とした。

SiCパワーデバイスの開発を推進することで、従来のSiパワーデバイスでは実現できなかった性能や領域への展開を目指す

また、自動車としてもスタータ/オルタネータは強いが、従来側のガソリン車のことであり、EVへの対応を早める意味合いを強調し、モータや車載充電器、DC/DCコンバータなどまで含めたユニットとして提供することを2014~15年までに目指した開発を進めているという。

EV/HEVに対応する個別素子/製品ではなく、ユニットとして提供することで、付加価値の向上などを狙う

そして、スマートグリッドについても、既存の集中型の発電/送電には強みをもっているが、それだけに注力するとスマートグリッドの標榜する分散型への対応が遅れることになるため、それを防ぐ意味を持たせた取り組みとしており、スマートグリッドや太陽光発電というこれまで提示してきた話のみならず、風力発電と揚水発電による実証実験をトルコで行うことなどを紹介した。

スマートグリッド/スマートハウス/スマートコミュニティなどの開発を行うことで、将来の電力のあり方に対応できる体制を整える

こうした新技術への投資もさることながら、グローバル化への注力も強調。すでに2010年度に、インド、ベトナムに販社を設立したほか、中国にパワステやカーマルチメディアの製造会社などを設立しており、「全社売り上げに占める海外比率をできるだけ早い時期で40%以上に持っていきたい」との意欲を見せるほか、各地域を意識した研究開発も行っていくことで、地域対応を進めていくとし、「2013年度に売上高4兆円を掲げているが、こうしたグローバルに向けた成長戦略を進めることで実現したい。それぞれの事業セグメント別の目標をとにかく達成したい」と全社だけではなく、事業セグメント別でも、同社が経営目標の1つとして掲げる「営業利益率5%以上」を達成し、「ROE10%以上」、「借入金15%以下」という残り2つの経営目標と併せて2011年度で達成することを目指す。

インドと中国は市場成長率が高く、また、製造拠点などの設立も進めており、今後の海外事業の中核を担うものと見ている。また、中国や欧州、米国などにも研究開発拠点を設置し、それぞれの地域に即した製品開発などを進めていくという

「2011年度には実質借入金0にできると思っている。そこで浮いた資金は成長分野への重点的に配分するほか、研究開発を継続していく。もちろん、株主への配当も着実に行って行きたい」と、健全な成長を続けることで、それをステークホルダーにも還元していくとした。