東京工業大学(東工大) フロンティア研究機構の細野秀雄教授(応用セラミックス研究所兼任)と溝口拓特任准教授らは、LaCo2B2の組成を母物質とする新しい超電導体を発見したことを発表した。同究成果は、米国物理学会発行の「Physical Review Letters」(オンライン電子版)で公開された。
2008年に東京工業大学の細野秀雄教授のグループが発見したLaFeAsO:F系超電導体は超電導臨界温度(Tc)26Kを示し、新しいタイプの超電導体として世界的な注目を集め、すでに3000を超す関連論文が報告され、鉄系超電導体という新分野が拓かれた。
鉄は典型的な磁性元素であり、それまでの常識では最も超電導になじみにくい元素である。鉄系超伝導で注目されることの多いTcは同年に中国のグループが報告したSmFeAsO:F系の55Kで、これは現在までの鉄系超電導体の最高温度となっている。
LaFeAsOやSmFeAsOがその元素含有比から1111系と呼ばれているのに対し、ThCr2Si2型結晶構造を持つAeFe2As2(Ae:アルカリ土類元素)は122系と呼ばれTcは若干低いものの(最高38K:Ba1-xKxFe2As2でx=0.4にて)、異方性が小さく、試料の作製が容易なことから、現在各所で研究が進められている。鉄系も、銅酸化物系も、高温超電導体では結晶構造において共通点として、超電導が生じる層と電気が流れにくい層とが交互に積み重なっているという特徴を持っており、鉄系ではFeとAsからなる層が超電導を担っている。
細野グループは、このような高温超伝導を発現する1111系型や122系型を出発点に、より優れた超特性や新しいタイプの超電導物質を探索する過程で、BaFe2As2と同じ結晶構造を持つLaCo2B2に注目した。同物質は構造中にCoBで構成されるFeAs超電導層と類似の構造を持っていること、Asのような毒性元素を含まないこと、122系型という比較的安定な結晶構造を有することから実用的にも期待できる物性が発現するのではないかと考え、実験を行った。
物質を構成する元素の単体をそれぞれ出発原料として、(La1-xYx)Co2B2、La(Co1-xFex)2B2、LaCo2(B1-xSix)2の各化学式で示されるように混合し、アーク溶融法により目的物質を合成した。
図1 (a) LaFeAsO(1111系型)及び、(b)LaCo2B2の(122系型)結晶構造。いずれもブロック層(aではLaO、bではLa)により挟まれた超電導層(aではFeAs、bではCoB)中の電導電子により超電導が発現する |
作製した物質について、電気抵抗、帯磁率を2-300Kの範囲で測定。母物質となるLaCo2B2は常磁性金属として振る舞い超電導は観測されず、CoをFeに、あるいはLaをYに部分置換した(La1-xYx)Co2B2、La(Co1-xFex)2B2において最高4.3K(x=0.15)以下で超電導が観測された。これは理論計算により、超電導を担う電子はCoに属することが明らかであり、コバルトが主役を演じる超電導体と結論づけられるという。
超電導の発現には反対の向きのスピンをもつ2つの電子が対を形成することが必須だが、磁性金属では、スピンの向きが全て同じ方向に揃ってしまうため、磁性と超電導は相性が悪いと信じられてきた。
強い磁性を持つ代表的な元素は、鉄、コバルト、ニッケルなどで、細野グループでは、2006年にLaFePOが、2007年にはLaNiPOが超電導になることを報告してきた。しかし、Co系についてはLaCoPO、LaCoAsOだけでなく、LaCo2P2、LaCo2As2などでも超電導は実現していなかった。
今回、PやAsなどのニクトゲン元素でなく、ホウ素を用いた物質LaCo2B2において超電導に発現に成功したことにより、鉄系超電導体と同じ結晶構造で、代表的磁性元素Fe、Ni、Coの超電導体が全て実現したこととなる。これは、今後の新超電導物質の探索の1つの指針となるものと研究グループでは説明している。
また研究グループでは、鉄系の122型におけるCoが超電導発現ドーパントであるのとは逆にFeがその役を務めていること、毒性元素を含まないこと、化学的安定性などから、研究面だけでなく実用的にも興味深い物質であり、超電導体探索の中心元素として鉄、ニッケルに加えてコバルトが加わったことで、より高いTcを持つ超電導体の追求が加速していくものとの期待を示している。