シャープが6月8日に発表した同社グリーンフロント堺における「シャープ・エコハウス」の実証実験。実際に建物の内部を見る機会を得たので、今回はその内容をレポートしたい。

家屋の広さは木造2階建てで延べ床面積約271.24m2。特定のハウスメーカーと協力して建てたわけではなく、「地方の工務店などでもある程度までは対応できるような仕組みまで考えた」という。また、建物の全体のコンセプトとして、断熱効果の高い作りを採用したほか、発電した電力を有効活用するためのオール電化としてのエコキュートを採用しており、HEMSにより、太陽光発電による電力、蓄電池の電力、系統電力のいずれかを効率よく活用するという。

シャープ・エコハウスの建屋を南側から見たもの。屋根の上に9kWの太陽光発電モジュールが設置されている

シャープ・エコハウスの建屋を北側から見たもの。奥の車庫に白いi-MiEVが停車しているのが見える

南側の屋根に9kWの多結晶Si型太陽光発電モジュールを設置。「実証用として大きなサイズのものを搭載している。日本の平均的な住宅の広さが約130m2となので、この量では確かに多い。平均的な家であれば、2~3kWの太陽光発電モジュールで今回のコンセプトは実現できる」としており、今回の建物であっても、5kWもあればすべての家電を動かすことが可能だとしている。

実際の実証実験は、4人家族を想定した同社の研究員が擬似的に内部で生活を行い、それをモニタリングして、各種の状況把握などを進めていくという。実験期間的なものは設定していないが、「第1フェーズとして夏場のデータをきっちりととること」とするほか、「冬場は太陽光発電の能力が落ちるので、そうした状況でのエネルギーマネジメントなども進めていく」とする。

また、蓄電池としては家屋内に設置されたリチウムイオンバッテリ(8kW)に加え、EVとの連係も行う。「蓄電池を活用して電気を溜めることで、ピークシフトが可能となる。もちろん停電時の対応も容易になる。しかし、蓄電池は経済的に大きな負担。そういった意味では、EVのバッテリを連動させることができれば、より蓄電池の活用がしやすくなる」とのことで、今回、三菱自動車と協力して、i-MiEVに直流(DC)の充電ポートを設置したほか、EVのバッテリから家庭側に電力を供給する機構を備え、その有効活用などの連動を模索する。DCの充電ポートは従来の交流(AC)の充電ポート(家庭用コンセント)に比べて、3倍程度の速度での充電が可能となっているほか、逆に家屋側に給電する場合、家一軒分(この場合は8kW)を供給することが可能。ただし、その場合は2時間程度で使い切ってしまうため、EVを走らせることができなくなるという。

実際にEVにDC給電ポートを接続して充電および家屋への給電を行っている

EVへの充電、EVからの給電もタブレットのボタンを1つ押すだけという簡便性を実現している

奥の白い四角いものが8kWの蓄電池。手前の方がインテリジェントパワコン。2つとも、本来は家屋内に置くものではないため、将来的には外に出しての試験なども行う予定とのこと

建物の内部には各種センサがあちこちに設置

同エコハウスは、家電の省エネに向けて立てられた実証実験施設だが、無数のセンサが設置されている。まず玄関には顔認証のためのカメラが設置されており、誰が来たのかを家自身が判別することができる。こうした顔認証のセンサは家内部のいたるところに設置されており、これにより、誰がいまどこに居るのかを認識し、その人に合わせた設定条件を割り出して快適な節電を実現することができる。

玄関の上にも顔認証のためのカメラが設置されている

分かりづらいが、手前の照明は点灯しているが、奥側のセンサの範囲に誰も居ないため点灯していない。これは、人が移動すると自動的に追尾してくる

家屋内の至るところに各種のセンサが配置されており、それにより、誰がどこにいるのか、人が居るのか居ないのか、明るいのか、暗いのか、などを箇所ごとに識別することが可能

寝室のLED照明。朝の目覚めに良いとされる昼白色系での点灯

同じ寝室のLED照明。眠るのに良い暖色系の点灯へと変更。徐々に輝度を落としていく、といったことも可能

こうしたコントロールもタブレットのボタン1つで行える

また、ダイニングや窓付近には照度センサが搭載されているほか、人感センサなども配置。これらのセンサにより、窓側は明るいから照明をつけないが、北側の通路はつける、人が居るところだけ照明をつける、といったことができるようになるほか、リビングでテレビを見ていて、そのまま付けっぱなしでダイニングに移動しても、リビングのテレビを消灯し、ダイニングのテレビに映っている映像を切り替える、といったことも可能となっている。

人の居ないダイニング。ブラインドが降りて、照明もついていない

人が入った状態のダイニング。自動的にブラインドが開き、照明も点灯し明るくなる

リビングに置かれた液晶テレビ

液晶テレビの裏側。家のコンセントと液晶テレビの間にスマートタップが挟み込まれている

人がリビングからダイニングに移動して、リビングに人が居ないことがセンサで確認されると、自動的にダイニングのテレビが点灯する

さらに、リビングには液晶のシャープとして、新しい価値の提案を模索する60V型を縦3列、横3列設置した大型液晶ディスプレイが設置されている。同社では、これを風景の映像や息子(娘)夫婦の家の様子を写し、等身大で、あたかも目の前にいるようなやり取りの実現、遠隔診断などに活用できるとするほか、さらなる価値の模索も進めていくとしている。

リビングに設置された60V型を縦横3つずつ配置した大型ディスプレイ。このような大型ディスプレイのさまざまな用途も模索していく

玄関に設置された縦型の60Vディスプレイ。普段は絵が表示されているが、人の出入りがあると、同社のイメージキャラクターを務める吉永小百合さんが丁寧なご挨拶をしてくれた。玄関ということで、鏡のような使い方なども考えられそうである

こうした機器連動や消費電力の状況はZigBeeベースのスマートタップをHEMSが管理することで実現されているが、「HEMSが脳の役割で、スマートタップが神経、インテリジェントパワコンが各家電に効率よく電力を送信する心臓部となる。脳と心臓がそろうことで、はじめて快適な節電が可能となる」とのことで、心臓であるインテリジェントパワコンについても、今回、ACだけでなくDCにも対応させ、ACとDCの両方で、同等機器を稼働させた際の電力消費の状況などの確認も行っており、DC家電の実用化に向けた問題点の洗い出しを行い、将来のDC家電の普及に向けた足がかりとする狙いがある。

各部屋に置かれたさまざまな家電にスマートタップが接続されている

子供部屋では、DC家電とAC家電(いずれもエアコンと照明)を同時に使用して電力の消費比較を行っている

子供部屋のAC家電とDC家電の消費電力比較をモニタする子供部屋の液晶テレビもDC家電

こちらはリビングに設置されたコンセント。白い方がAC、赤い方がDC接続でパワコンを経由して蓄電池よりDCでダイレクトに給電される

なお、同社では節エネ、創エネ、蓄エネの3本をHEMSで連係させることが、今回の鍵であり、その効果をはっきりさせるとともに、課題を顕在化させ、対応をはたしていくことを重要視しており、将来的には、同エコハウスを単体の家という単位ではなく、地域としてのエコタウンとしての連係を目指した家々間の電力のやりとりなどに向けた取り組みも進めていく方針としている。