2011年度の売上高は横ばい見込みも工場停止の特別損失を計上

シャープは2011年6月3日、2011年度(2012年3月期)の経営方針説明会を開催、同年度の業績予想ならびに液晶事業の構造改革に関する説明を行った。

シャープ代表取締役社長の片山幹雄氏

2011年度の連結業績予想は、売上高が前年度比0.9%増の3兆500億円、営業利益が同22.9%増の970億円、経常利益が同13.3%増の670億円、純利益は構造改革費用などが負担となり、同69.1%減の60億円となる見込み。また、設備投資費用は同7.3%減の1600億円、減価償却費は同5.5%減の2400億円、研究開発費も同2.3%減の1700億円と、「絞込みによる費用の削減を図っていく」(同社代表取締役社長の片山幹雄氏)としている。

2011年度の業績のポイントは2つ。1つは東日本大震災によるサプライチェーンの混乱と需要の減退、そして在庫過剰となった大型LCDパネル工場の生産停止による同年度第1四半期の減益。2つ目は、その勘案の大型LCDパネル事業の構造改革を進めることで、同第1四半期をボトムとした収益改善策の実施で、この2つの影響から、特に第1四半期が80億円の経常損失、500億円の純損失(構造改革費用としての特別損失を含む)を見込んでおり、上半期では370億円の純損失を予想している。

2011年度の通期連結業績予測

2011年度上半期(第1・2四半期)/下半期別の業績

主な特別損失としては、事業構造改革費用として2011年度第1四半期に60億円、同第2四半期にも60億円、下半期に30億円を計上するほか、大型液晶事業の操業損が第1四半期に270億円発生する計算で、2項目合計で360億円の損失となる。

2011年度の特別損失の主な項目

2011年度の主用商品・デバイスの見通し。太陽電池は国内中心に需要が堅調なためプラス成長が見込めるが、携帯電話は国内が飽和状態にありマイナス。液晶テレビも販売台数はほぼ横ばいも価格下落や国内のエコポイント制度終了の反動などの懸念からマイナス成長となっている。なお、LCDパネルもマイナスだが、内訳としては「大型が前年度比で30%減も、中小型は同50%の増加。2010年度の中小型比率は35%だが、2011年度には50%強にまで引き上げたい」としている

2011年度の部門別売上高見通し。エレクトロニクス機器は携帯電話や液晶テレビが足かせとなり減収。一方の電子部品は太陽電池やスマートフォン向けカプラモジュールなどが好調のため増収が見込めるという

2011年度の部門別営業利益。ほぼ売り上げと同様の流れ。LCDパネルについては、大型で利益が減るのを中小型の伸びでカバーするという見通し

LCDはコモデティから高精細の中小型と50型以上の大型領域へシフト

事業構造改革費用の大半は同社の液晶テレビ向けLCDパネル工場である「亀山第1工場」および「亀山第2工場」の生産体制の最適化に充てられる。

「世界中でLCDパネルメーカーの収益が悪化し、それに伴い液晶テレビメーカーの収益も悪化している。しかし、その一方で、スマートフォンやタブレットなどの台頭で、中小型LCDではより高精細なパネルが求められている」ということを前提に、大型LCDパネル事業の収益改善をどう行うのか、拡大する中小型LCDパネルへの対応をどう図って行くのか、という2つの切り口にて構造改革が行われる。

シャープが掲げる液晶事業の改革コンセプト

最大のポイントを片山氏は「コモデティのない所へ脱却を図る」と表現する。液晶テレビの普及サイズは20~40型だが、この分野は競争が激しく、韓国ベンダも台湾ベンダも赤字の状態となっており、事業としてはまったくうまみがなく、「日本と中国では亀山ブランドが根付いているため、継続して普及サイズの液晶テレビを亀山にて生産していくが、基本は同社の液晶パネル技術「UV2A」をライセンス供与した南京中電熊猫液晶顕示科技の第6世代(G6)工場での量産が開始しており、7月には液晶テレビ向けLCDパネルが出荷される予定のほか、台湾ベンダにも同様にライセンス供与を行い、コスト競争力を確保してコモデティサイズの液晶テレビをグローバル、特に新興国向けに提供していく」とその方向性を示す。

事業の主軸を利益の出ない普及サイズ(20~40型)から高精細が求められるスマートフォン/タブレットなどの中小型と50型以上の大型へとシフトさせる

亀山第1工場のG6設備は、南京中電熊猫に譲渡されており、その空いたスペースには中小型向けCGシリコンラインが導入される。スマートフォン向けで、「CGシリコンは現在、引き合いが増えており、減価償却を終え、2010年度の上半期で稼働を止めていた天理工場(Fab1)も2011年1月より稼働を再開、三重第3工場(Fab2)と併せて増産を進めているが、それでも足りない状況であり、亀山第1工場にG6対応のラインを入れることを決定した」という。量産は2012年の春を予定しており、2012年度の業績から、その効果が反映される見通し。

G6対応の亀山第1工場にCGシリコン技術を導入し、高精細化ニーズの高いスマートフォン向けに提供していく

一方、第8世代(G8)対応の亀山第2工場には、タブレット向けとして同社が2011年4月に発表した酸化物半導体「IGZO」を活用したパネルの生産が行われる。「2011年10月以降、液晶テレビ向けから切り替えを進め、年末にはタブレット向けに出荷を開始する計画」とするほか、従来の液晶テレビ向けラインとコンパチ設計のため、「需要動向次第で、どちらにでも生産を振ることが可能。これにより、厳しい20~40型のパネル外販ビジネスをやらなくて済む」と、需要に応じた柔軟な生産対応が可能になることを強調する。

G8対応の亀山第2工場のラインを改修。タブレット向けにIGZO技術を採用したパネルを生産可能とし、通常の液晶テレビ向けパネルと需要動向に併せて使い分けを行うことで、ラインの稼働率と利益率の向上を狙う

同社が提供する中小型LCDパネルの生産能力拡大のロードマップ。IGZOパネルは2011年度下半期から立ち上げ予定となっている

また、同社が堺に有する世界最大の第10世代(G10)対応のLCDパネル工場も「この数年は40型ばかり製造してきたが、低成長分野で赤字のサイズ。G10で18枚取りしても赤字」としているが、今後は「G10は60型で8枚、70型で6枚取れる。70型は丁度、電子黒板のサイズであり、電力もUV2Aにより抑えることができ、デジタルサイネージを含め、そうしたテレビ以外の市場(Non-TV)や50型以上の大型液晶テレビが成長していることを踏まえ、40型を減らし60型以上を増やしていく」という方針を打ち出しており、こうした大型LCDパネルの外販も含め、中小型LCDパネルの成長と併せて、同社の液晶事業のドライバとして活用していく計画としている。

G10を活用すると、60型で8枚、70型でも6枚を1枚のマザーガラスから取ることが可能

亀山第2工場の中小型へのシフトと堺工場の大型へのシフトによりその間の20~40型の生産数量は減っていく。この領域に対しては、中国および日本向け(亀山ブランド)を除いて外部ベンダへの技術供与して作らせることで、コスト競争力を維持する方針