東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻の須賀唯知教授および近藤龍一(博士課程:現 太陽誘電)らの研究グループは、常温接合の新手法を発表した。同方法を用いることで、従来は困難であった熱酸化膜やガラス、サファイア、圧電単結晶などの無機材料ウェハの接合を常温で実現することが可能となる。同成果は5月31日より米国フロリダにて開催されている国際会議「第61回 ECTC」にて発表される予定。

異種半導体デバイスウェハの積層、貫通電極(TSV)のファインピッチ接続、ファインピッチ超多端子一括接続、MEMS-半導体融合実装など、現在の半導体実装技術が抱える課題に対して、常温接合は大きなブレークスルーをもたらすと期待されている。

常温接合は、もともと表面酸化物をイオン衝撃によって活性化し、そのまま接触させることで、加熱することなく接合を行う手法であり、須賀教授らが中心となって開発してきた日本固有の技術。半導体業界ではこれを次世代技術の1つと位置づけ、1998年から産学連携コンソーシアム(電子実装工学研究所)を設立、現在も産業界のニーズを反映した基礎研究が続けられている。

一方、いわゆる従来タイプのウェハ接合は常温接合とは異なり、SOI基板の製造方法として発展してきた経緯を持つ。常温接合では真空中で常温接合を行うのに対し、従来タイプのウェハ接合は、大気中で仮接合を行ったのち、高温加熱処理をすることで接合を実現するが、現在の先端デバイス製造では、熱膨張係数の異なる基板や非耐熱構造の接合など、150℃以下の低温接合へのニーズが大きくなっており、そのため、従来タイプのウェハ接合であっても、あらかじめ酸素プラズマ照射を行うプラズマ活性化接合で低温化を図ることが行われている。常温では強度は小さいという課題があるが、実用化という意味では、従来のウェハ接合が大きく進んでおり、その理由が、常温接合では超高真空という特殊な環境を構築する必要であることが挙げられる。

超高真空状態を実現する必要があるため、常温接合の適用対象は小型のチップや小径ウェハに限定され、また、熱酸化膜を含め、酸化物系材料のウェハについては常温での接合強度は十分ではないという問題もあった。

こうした課題に対応するため、同研究グループでは、従来困難であった熱酸化膜やガラス、サファイアなどの酸化物系材料を含め、さまざまな材料についても接合を可能とした新たな接合手法を開発した。

SiO2熱酸化膜ウェハ接合強度の比較

また、条件次第では、超高真空環境がなくても表面活性化が可能であることが示されており、これにより大口径ウェハや大面積ガラス、低耐熱性ポリマなどの接合も可能となり、現在問題となっている色素増感型太陽電池や大面積有機ELディスプレイなどの封止技術への適用も可能となるという。

SiO2熱酸化膜ウェハの接合界面(透過電子顕微鏡像)

具体的には、従来の常温接合では難しかった熱酸化膜やガラスやサファイアといった酸化物系材料などを対象とした常温接合、および大気中での常温も可能とする技術で、接合面に鉄(Fe)ナノ密着層とシリコン(Si)介在層(薄膜中間層)を組み合わせた表面活性化を行い、常温の接触のみで接合を行うというもの。

研究グループでは、すでにFeナノ密着層が非金属系の常温接合には有効であることを見いだしていたが、酸化膜やイオン結晶性の材料に対しては接合強度は十分ではなく、対象によっては接合後さらに加熱処理が必要であった。今回の研究では、Si接合において、Feナノ密着層は実際にはFeSi層を介して接合することで高強度の接合を実現していることを発見した。

また、Si-SiN膜、Si熱酸化膜、硼珪酸ガラスウェハ接合の界面微細構造と結合状態の評価より、酸化物表面にFe-Si密着層が形成することが強固な常温接合を可能にしていることも見いだした。

これらの結果から、Si薄膜中間層を介在層とし、Feナノ密着層と組み合わせることで、積極的に界面にFeSi密着層を形成させ、従来困難とされてきたSiO2-SiO2接合を実現したほか、SiN膜、サファイア、ガラス、圧電単結晶ウェハ接合などでも適用を試み、それぞれ良好な結果を得たという。

なお、研究グループでは同手法により、半導体デバイスの3次元積層、MEMSデバイスとの融合、フォトニクスデバイスの開発などの進展が期待できるとしている。