アイデアをビジネスへ - リコーが始めた新たな挑戦

リコーは2010年度より、「正商品の一歩手前のアイデアレベルのものをビジネスに活用してもらおう」をコンセプトとした「TAMAGO タスクフォース(TF)」の展開をスタート。2011年4月25日に、その第1弾としてペーパーレス会議の実現に向けたiPad向けアプリケーション「RICOH TAMAGO Presenter」をApp Store上に公開した。同アプリを活用することで、どういったことができるのか。また、同社のTAMAGO TFとは、どういったものなのかを同社に聞いた。

商品一歩手前というと、聞こえは悪いが、いわゆるβ版レベルのものを提供しようという考えで、オープンテストのような形で、100%のクオリティを実現する前にユーザーニーズに応えられるものをいち早く提供しようという姿勢のもとにTAMAGO TFは活動している。TAMAGO TFは文字通り「たまご」のようなアイデアレベルの発想をもとに、業務に役立つアプリなどを"沢山"生み出そうという試みであり、沢山生み出されるアプリを、実際にユーザーに使えるのかどうかを判断してもらうことで、さまざまなニーズのフィードバックによる機能追加や拡張を行い、ある程度、成長が見込めるものに育ったら、付加価値が付いた製品を有償版として提供することで、自社のビジネスに結びつけようという方針。そのため、育たないものもあることは折り込み済みで、同社では「90日プロジェクト」として、3カ月でプロトタイプまで作成し、β版もしくはα版を提供してみようという方針でさまざまな開発を進めているという。

iPadの活用によりサーバ不要でデータを共有

そうした取り組みの第1弾として提供が開始されたTAMAGO Presenterだが、会議などで配られる"だけ"の資料を紙に印刷せずに会議出席者で共有しようというもの。ペーパーレス会議システムと聞くと、すでに似たようなソリューションが複数存在しているが、同アプリの最大の特長はサーバを用いずに、複数台のiPadのみで利用できるということ。

見づらくて申し訳ないが、上から3列目、右から3つ目の「Presenter」が同アプリ。このアプリを複数のiPadに入れるだけでプレゼンテーションに使うことが可能となる

同アプリは、起動すると、ホスト側のiPadと複数のクライアント側iPadが自動的に同期され、ホストがスライドをめくると、クライアント側も併せてスライドがめくれるというもの。

プレゼンデータはPDFに対応しており、ホストがiPadのブラウザ(Safari)もしくはPCとiPadを同期してiTunesからダウンロードして、クライアントとリンクした時に、そのデータがクライアント側に受け渡される形となっている。そのため、会議が終了すれば、そのデータは基本的に破棄されるが、もし、そのデータが欲しいということであれば、「GoodReader」や「Evernote」上に残すことは可能だという。

TAMAGO Presenterの活用イメージ。ちなみに、開発時はTAMAGO TFの第1弾ということで、「TAMAGO1号」という開発コード名で呼ばれていたという

「基本的に、その人専用のiPadが支給されていれば、問題はないが、社内の共有iPadの場合、データがそこに残っているのはセキュリティ上、問題となることから、基本的にデータは端末上に残さない」という考えによるもので、セキュリティ対策としては会議名とパスワードで会議へ参加する人の制限も可能となっている。

TAMAGO Presenterのログイン画面。ここでパスワードと会議名を選択することで、当該会議にアクセス、資料を閲覧することが可能となる

また、「Local/Share」と「発表者」の2つのボタンが用意されており、使い勝手を向上させている。Local/Shareのボタンは、クライアント時に活用する機能で、通常(Share時)はホストがページをめくると、クライアント側もめくれてしまうが、Localに切り替えることで、発表者とは違うページを自由に閲覧することが可能となる。一方の発表者ボタンを押すと、押した人のiPadが瞬時にホストへと切り替わり、これまでのホストに代わってプレゼンテーションを続けたりすることが可能となる。

LocalとShareにより、ホストと連動させたり、個別に好きなページを読んだりが可能となる。ちなみにすべての操作ボタンは画面上に配置されている

Share状態で勝手にページをめくろうとすると、ご覧のような赤い文字で操作できないことが表示される

さらに、同社製プロジェクタ「IPSiO PJ X3240N」や「IPSiO PJ WX3230N」と無線LANで連携させることで、プロジェクタでプレゼンデータを投影したり、プロジェクタの電源ON/OFFや輝度などの管理が可能となる。こうした設定もプロジェクタのアイコンを押すだけで、複雑な設定などは不要となっている。

同社の無線LAN対応プロジェクタとも簡単に同期させることが可能

プロジェクタの機能ボタンを押すだけで、プロジェクタの状態が表示される。この画面から、電源のON/OFFや入力の切り替えなども可能となっている

すでに実践活用として同社グループ会社の役員会議向けに20台程度のiPadが常設された会議室も作られ、定例の会議などの資料を閲覧する用途などでの社内利用も進められているほか、プロジェクタを取り扱うチームとの連携も進められているという。

同アプリの利用推奨環境。推奨環境という形にしているのは、さすがに60台や100台といった台数のiPadを用意して、同アプリが軽快に動くかの確認ができていないため、とのこと

「会議のペーパーレス化というと、どうしてもサーバを経由して、という設備投資がかかるというイメージがあった。同アプリでは、そうしたイメージを払拭したかった」と同社では説明するほか、「我々もMFPなどの機器を長年扱っており、決して紙の利便低を否定するものではない。ただ、Excelの表などをA3用紙に印刷しても、数字が小さく見づらかったり、という課題に対し、ズーム機能などがあるiPadを適材適所として活用したいという考えから、今回のアプリの開発に至った」と会議でしか使われない、いわゆる不要な紙を減らしつつ、ビジネスの効率とコストの削減の両立を目指した結果、今回のアプリ開発に至ったとする。

そのため、「今後は、紙からスマートフォン、タブレット、PCそれぞれの機器が、どれがどういったことを行う、といった住み分けも我々で提案していく必要がある」と、ソリューションとしての提案も進めていくとする。

ちなみに、現在のバージョンでは、そうした住み分けや適材適所としての意味合いも含めて、iPhoneで利用しようと思っても、機能がオフにされていて活用できないが、将来的にはプレゼンのページをめくるリモコンとしての活用などにニーズが見出されれば、そうした対応版が提供される可能性があるという。

なお、同アプリは現在、会議室内や狭い範囲のみでの活用が想定されているが、将来的には「テレビ会議を介して、遠隔地とのiPadによるペーパーレス会議システムなどの提供も可能になるかもしれない」としており、2011年6月15日および16日に、東京国際フォーラムにて同社が開催する「VALUE PRESENTATION 2011」にて、同アプリを活用したソリューションの展示を行う予定としている。