京都大学の須田淳 工学研究科電子工学専攻准教授、三宅裕樹研究員、木本恒暢教授の研究グループは、SiCバイポーラトランジスタの電流増幅率を従来の倍以上に引き上げる技術を開発したことを発表した。同成果の詳細は5月23~26日に米国カリフォルニア州サンディエゴで開催される米国電気電子学会(IEEE)のパワー半導体デバイス国際シンポジウム「International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs(ISPSD)」において25日(現地時間)に発表される予定。

須田准教授のグループは、7年前からSiCバイポーラトランジスタ(BJT)の潜在性に着目し、SiC BJT最大の問題である電流増幅率向上に取り組んできており、長年の基礎研究で蓄積したSiC材料技術、物性制御技術、デバイス技術の知見を基に、新しいSiC BJTの作製プロセスを開発、これにより従来の電流増幅率の世界記録(2007年:米Creeによる110、2008年:本田技術研究所と新電元工業の共同研究による134)を上回る257~335の電流増幅率を持つSiC BJTの作製に成功したという。

具体的には、SiC中の電子的な欠陥を低減させる工程を作製プロセスに導入し、トランジスタ表面における望ましくない電子-正孔再結合を抑制するSiC/SiO2界面作製技術を組み合わせる。さらにデバイスの構造を工夫することを行い、これらの相乗的な効果により高い電流増幅率を達成したという。特に、増幅率が300を超える素子については、過去にSiC BJTの作製が試みられていなかったSiC結晶の反対極性面((0001):炭素面と呼ばれる面)の活用により実現している。

同研究は、SiC BJTの最大の問題である電流増幅率の問題解決の方向性を実験的に実証するもので、研究グループでは、SiC BJTの性能向上に詳細なメカニズム解明やさらなる高性能化を進める計画としている。