国立天文台は、アルマ望遠鏡の口径7mアンテナ1号機が性能確認審査をクリアし、2011年5月2日にアルマ観測所への引き渡しを行ったことを発表した。同アンテナは、日本が製作を担当する12台の7mアンテナの最初の1台であり、この引渡しによりアルマ望遠鏡は本格的な運用に向けた展開が開始されたこととなる。
アルマ望遠鏡は欧州、北米、東アジアとチリの国際協力プロジェクトで、口径12mのパラボラアンテナ54台と口径7mのパラボラアンテナ12台の計66台を結合することで1つの巨大な電波望遠鏡として機能する。同66台のパラボラアンテナのうち、日本は口径12mアンテナ4台と7mアンテナ12台、計16台の製造を分担しており、日本国内で製造後、分割して船便でチリに送られ、アルマ観測所山麓施設(標高2900m)内のアンテナ組み立てエリアで全体システムの組み上げと多数の項目にわたる調整、試験が行われる。その後国立天文台のスタッフにより、天体を使った詳細な性能試験が実施され、性能確認審査を経てアルマ観測所に引き渡されるという流れ。
すでに日本の12mアンテナは、1号機が2008年末にアルマ観測所の第1号アンテナとして引き渡されて以降、4台すべての引き渡しが行われており、今回、口径7mアンテナの1号機が性能確認審査に合格し、アルマ観測所に引き渡されたこととなる。今後、アルマ観測所のスタッフにより受信機の搭載と総合的な電波性能試験、試験観測が行われ、標高5000mの山頂施設に移設されて科学観測に使われることが予定されている。
日本が担当するパラボラアンテナ16台からなるシステムは、アタカマ・コンパクトアレイ(Atacama Compact Array;ACA、愛称「いざよい」)と呼ばれている。ACAシステムは、天体からやってくる電波の強度を精度よく測定するために欠かせない装置。アルマ観測所のように、多数のパラボラアンテナで受信した電波をコンピュータで合成して1つの大きな電波望遠鏡として機能させる仕組みを「電波干渉計」と呼ぶ。
電波干渉計ではそのアンテナの広がりと同じ口径を持つ電波望遠鏡と同等の視力(解像度)を得ることができ、アンテナを広い範囲に配置すればそれだけ高い解像度を得られ、アンテナの間隔を広げることで天体の詳細な構造を調べることができるが、逆にぼんやりと広がった雲のような天体の観測がしづらくなる。こうした問題を解決し広がった天体を観測するにはアンテナ間隔を狭くする必要があるが、米欧が製造を分担する口径12mのパラボラアンテナでは、隣り合うアンテナが衝突するのを防ぐため15mよりもアンテナを近づけることができない。一方、1回り小さなACAシステムの7mアンテナを使えばアンテナ間隔をより狭くすることができ、その分広がった天体までしっかりと観測することができるほか、ACAシステムの口径12mアンテナは干渉計としてではなく単一の電波望遠鏡として働き、対象天体から来る電波の強度を正確に測ることが可能なため、これらのタイプの異なる3つのパラボラアンテナを組み合わせることで、アルマ望遠鏡は高い解像度と広がった天体に対する高い観測性能、そして電波強度の正確な測定能力を併せ持つ電波望遠鏡となる。