近年、報道機関内の主要ビデオ編集ツールとして「Premiere Pro」や「After Effects」が採用され始めているという。今、アメリカの映像業界にどのような変化が起きているのか、米アドビ システムズにて、「Premiere Pro CS5」や「After Effects CS5」を担当するアドビシステムズ プロフェッショナルビデオ バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー、ジム・ジェラルド氏とアドビシステムズ プロダクトマネージメントディレクター、ビル・ロバーツ氏の2名に話を聞いた。
アドビシステムズ プロフェッショナルビデオ バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー、ジム・ジェラルド氏(写真左)と、アドビシステムズ プロダクトマネージメントディレクター、ビル・ロバーツ氏(写真右) |
大手報道機関内で使われている「Premiere Pro CS5」
「Premiere Pro」や「After Effects」というと、CGとの合成映像やミュージックビデオのような派手な作品を想像する方も多いだろう。しかし最近では報道機関内の主要ビデオ編集ツールとして、BBCやCNN、Media General(米国に25もの局を持つメディア)などに採用され始めているという。特にBBCとCNNは、同社と密接な関係を作っており、カスタマイズされたPremiere Proを局内の標準ツールとして使用している。コアとなる「Premiere Pro CS5」は市販のツールと同じものだが、それを局内の映像ライブラリーとつなぐため、独自のプラグインを開発し、対応させている。こうすることにより、Premiere Pro CS5上から局内の膨大な量のライブラリーを閲覧し、プロキシ映像やHD映像を呼び出し、編集作業を行うことができるようになっているのだとのこと。
では、Premiere Pro CS5が登場するまではどうしていたのであろうか。結論からいうと、さまざまなツールを混在させて使っていたそうだ。しかしPremiere Pro CS5が導入されたことにより、本ツールのみで作業が完結するようになり、シームレスに映像番組を制作可能になった。従来のツールから同社製品に乗り換えたことについてジェラルド氏は、「我々のツールを選んでもらえた理由はいくつかあります。特に好評なのはプラットフォームを選ばず、WindowsでもMacでも使え、さまざまな映像フォーマットにもネイティブで対応している点です。また、ほぼすべての報道機関で、古くから『Photoshop』や『Illustrator』といったアドビ製品が使われていた点も要因のひとつで、ビデオ編集ツールもアドビ製品にしたほうが、スムーズなワークフローを組めるという利点があったようです」と語った。
映画業界でも実績を伸ばしつつある
Premiere Pro CS5とAfter Effects CS5
「Premiere Pro CS5」と「After Effects CS5」は、映画制作においても使用される機会が増えてきている。最近の作品でいうならば、日本でも話題になったデビット・フィンチャー監督作品『ソーシャル・ネットワーク』(2010)が有名だ。ロバーツ氏はデビット・フィンチャー監督について、「彼はテイク数が多いことと、最新テクノロジーを好んで使うことで有名です。最近は4K映像を扱っているため、データの量は膨大になっています」と語る。そんなデビッド・フィンチャーが撮り貯めた大量の4K映像を編集するためのツールとして導入したのがPremiere ProとAfter Effectsだ。このことからの両ツールのパフォーマンスの高さが伺えるだろう。
そして、映画『Monsters』という映画を撮影したギャリス・エドワード監督は、アドビのツールを使うことにより、制作費を50万ドルに抑えつつ、数百万ドルの興行収入を稼ぎ出すことに成功している。なお、Monstersは低予算映画として話題になっただけでなく、ブリティッシュ・インディペンデント・フィルム・アワードに受賞し、クオリティーの高さも実証されている。さらに、エドワード監督は、現在『ゴジラ』のリメイク版を制作中。この映画にもPremiere Pro CS5が編集ツールとして採用される予定とのこと。
これ以外にも、アメリカでは、元々スチールカメラマンだった人たちが映像を制作し始めている傾向があるという。これは、これまで映画を撮影するとなると、大手映画会社を説得し、資金調達から始めなければならなかったが、今ではキヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS5D Mk2」のようなハイエンドなデジタル一眼レフカメラとPremiere Pro CS5、After Effects CS5さえ用意すれば、誰でも高品質な映画を作れる時代になったことが大きく関連している。ジェラルド氏は「ここ5年ほどで、映画制作の現場は変化してきています。自己資本で劇場公開に耐えうる映画が作れるなんて、ひと昔前は考えられなかったでしょう」と話した。
なお、2011年5月20日に同社から最新の映像制作ソフトを盛り込んだ「Adobe Creative Suite 5.5」が発売される予定となっており、同時に「Adobe Creative Suite 5.5 Production Premium」を紹介する特別セミナー「CS5.5 VIDEO DAY」も開催するとのこと。