エルピーダメモリは5月12日、同社2011年3月期の決算概要を発表した。

売上高は前年度比10.1%増の5143億1600万円の過去最高を達成。営業利益は同33.3%増の357億8800万円、経常利益は同12.7%増の138億5400万円、純利益は同32.1%減の20億9600万円と最終利益のみ減益となった。この原因について、執行役員COO DRAMビジネスUnit長の木下嘉隆氏は、「年間の出荷ビット成長率は同33%増ながら平均販売単価(ASP)は同12%減となっており、円高の進行とのダブルパンチで純利益が悪化した」と説明する。

左が2011年3月期通期の業績。右が2011年3月期第4四半期(2011年1-3月期)の業績

ただし、DRAMの価格については、「2011年1-3月期の2GビットDDR3(1333Mbps)の平均スポット価格はグローバルで前四半期比で約30%下落したが、エルピーダのASPは同10%の下落に抑えることができた」とし、5月12日時点で1.02ドル(1Gビット DDR3 1333Mbps)と、「2011年に入り底を打った感じがある。2Gビット品もスポット価格、コントラクト価格ともに下落が続いたが、ここに来て上向いており、6月以降も堅調に推移するものと見ている」とDRAM価格の底打ち感を強調する。

DDR3 1333Mbpsの1Gビット品ならびに2Gビット品の価格推移いずれもこの1年で大幅な下落となったものの、底打ち感が出てきたという

通期の営業損益変動を見ると、価格下落および在庫評価損が約620億円、円高の影響が約250億円の悪化要因となっているものの、プロセスの微細化による生産効率化などのプラス要因が約1020億円あり、それにより前年度よりも3割超の営業利益増を達成したという。

営業損益の変動要因。プロセスの微細化や歩留まり改善のほか、諸々の施策を進めた結果、1000億円以上のコスト低減を果たし、利益増を果たした

また、3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、地震による人的被害および装置などへの被害はなく、DRAM製造の前工程を担う広島工場でも、影響が軽微であったため翌日には通常操業に戻ったほか、後工程を行う秋田エルピーダメモリでも、当初は停電により操業停止となっていたが、3月16日以降順次生産を再開し、地震による業績への影響は軽微であったという。

さらに、各工場の操業に必要な資材については、グループ間の在庫調整および各取引先からの情報収集の結果、7月末までの製品供給に関しては問題ないことを確認しているとするほか、8月以降については、各取引先と諸策の検討を進めているが、各社とも被災地における生産の再開や他拠点での増産などの対策を講じており、大きな支障は発生しないものとしている。

各アプリケーション別のDRAM需給状況については、「スマートフォンが震災の影響による生産減が一部で懸念されており、当初の見込みよりは成長率が鈍くなるが、それでも2011年通年で約5億台の出荷と見ており、依然として旺盛な需要が見込める。また、タブレットPCも、この4-6月期より、携帯電話メーカーやPCメーカーより製品が出揃ってくることもあり、2011年は本格的に市場が立ち上がる」(同)と新規アプリケーションの市場拡大の期待を示すほか、「デジタル家電は、下方修正の懸念があるも、新興国の需要増加を期待。サーバについても、クラウド向け需要などでの需要の増加を期待。ただし、PCについてはタブレットに市場が食われ、1桁台の出荷台数成長率に縮小する見込み」と、既存アプリはまだら模様の状況になるとの見方を示した。

そうした中で、同社は30nmプロセスDRAMの量産を開始したほか、25nmプロセスDRAMの開発を終えており、30nmプロセス採用の2Gビット品の立ち上げ準備を現在進めており、今年中の本格量産を予定している。中でも、次期主力製品と位置付けられている4Gビット LPDDR2については、「モバイル機器の方がPCに比べ4Gビット品への移行意欲が高い」とのことで、6月から同社広島工場にて量産を開始する予定。また、25nmプロセス品についても、7-9月期中に同工場にて少量生産を開始させる計画で、「エルピーダの一般的な初期生産から本格量産までの期間は約6カ月。25nmプロセス品はこれよりも早い期間での立ち上げを実現したい」(同社代表取締役社長兼CEOの坂本幸雄氏)とし、2011年10-12月期までには自社ファブ(広島およびRexchip Electronics)に投入するウェハの内60%を30nmプロセス以下の製品にする計画を示した。

こうした先端プロセスに向けた設備投資として今年度は、800億円が予定されている。前年度は1176億円で、それよりも300億円ほど低い金額だが、これについて坂本氏は、「ウェハ1000枚あたりの設備投資額を見ると、エルピーダの場合、70nmプロセスの時と比べると30nmで1/7に抑えられる。これが何を意味するのかというと、キャッシュが無くても先端プロセスへの投資ができる。40nmプロセスあたりから、開発体制を改め、高額な投資を行わなくても新技術を導入できるようになった。これにより、例えばRexchipの生産品を100%(月産8万枚強)25nmプロセス品にしようと思っても、250億円程度でできるようになった」と、低コストで先端プロセスに移行できることが、競争力を生み出していることを強調する。

先端プロセスへの設備投資は高い、というのが一般的な認識だが、設備投資を抑えつつ先端プロセスへ移行することで、将来の競争力の確保を狙う

ただし、対ドルの為替レートがリーマンショック以降、円高に傾いていることに対しては、「円高が不必要に進んでいる。リーマンショック前後の対ドルで見ると、日本円は26%円高になったものの、韓国ウォンは21%ウォン安となった。もし、同一条件で円安となっていたことを考慮すると、2011年3月期の業績は売上高8400億円、営業利益2300億円。純利益2000億円程度まで行けていた」と振り返り、「円高進行を政府が管理できていない。エルピーダの規模でこのレベルのインパクトがあることを考えると、さらに大きな会社はもっと売り上げが拡大できたはず。為替については国益にかかわることなので、しっかりと国にコントロールしてもらいたい。もし、韓国と同じ条件になっていれば、我々は彼ら以上の利益を生み出せると思っている」と、円高が続く状況に苦言を呈しつつも、DRAMビジネスとしては他のベンダに負けないという自信を覗かせた。

対ドルの日本円の平均為替レートの推移。リーマンショック以前と現状と比較すると、26%の円高状況となっている。坂本氏は、中間決算時も円高に関する苦言を呈している

なお、同社はDRAMの最大市場であるPC向けDRAM製品の価格が需給バランスの影響を受けやすく、また将来における価格動向を的確に予測することが極めて困難なため、業績見通しを公表していないが、ガイダンスとして、2012年3月期第1四半期のビット成長率を前四半期比で20-30%成長、通期のビット成長率を前年度比50%以上の成長との見方を示している。