アドビ システムズが、全世界の学生を対象として毎年開催しているデザインコンテスト「Adobe Design Achievement Awards」。本コンテストは同社が10年以上続けてきている歴史があるコンテストだ。しかし、近年まで、エントリーや告知文が英語であったことなどから、日本からのエントリー数が少ない状態が続いていた。同社製品のユーザー数から考えれば、米国の次に多いエントリーが発生する地域が日本でなければならないだろう。そんなことを考えると、寂しい状況が続いていたわけである。

しかし、ついに本コンテストWebサイトが全て日本語対応し、エントリーしやすくなった。この点を日本でクリエイティブ関連に携わっている人たちが再認識してもらうことに大きな意義がある。同社がリリースしているソフトウェアの守備範囲からも分かるように、世の中のデザインジャンルは凄いスピードで広がっており、本コンテストにおいても、多くのカテゴリーを用意し、様々なクリエイターがエントリーしやすく工夫されている。では、ここで募集カテゴリーを簡単に整理していこう。

■インタラクティブメディア
ブラウザベースと非ブラウザベースのデザイン、アプリケーション開発、モバイルデザイン、ゲームデザイン、インスタレーションデザインと今もっとも注目されているデザイン関連の分野であるため、3つあるカテゴリー群の中でもっともカテゴリー分けが多く設定されている。また、カテゴリーによっては完成品を提示する必要が無く、コンセプトだけでもエントリー可能だ。常に新しい表現と斬新なアイデアが求められているジャンルなので、学生の持つエネルギーをぶつけやすいのではないだろうか。募集要項を熟読し、大いに検討してみると良いだろう
■動画およびビデオ
アニメーション、ライブアクション、モーショングラフィックスと設定されている。実は個人的に、このカテゴリー群に大いに期待している。従来は映像分野に既存のグラフィックデザイナーが関わることはなかったが、静止画を動かすモーショングラフィックスが「Flash」を利用する事で簡単に作成できるようになり、グラフィックデザイナーの視点で創り出されるモーショングラフィックスあるいは映像作品に注目が集まっている。ただし、作品は冒頭の5分間のみが審査対象となるため、要注意だ。言い換えると冒頭5分に訴求ポイントを設定する事が合否の明暗を分けてしまう。そのため、ショートムービーの類を色々と研究しておくと良いだろう
■従来のメディア
イラストレーション、パッケージング、写真、プリントコミュニケーションが設定されており、全カテゴリー群内において、もっともエントリーしやすいカテゴリー群といえる。写真に関しては、写真の性質を持ちデジタル処理または加工されたものでなければならない。言い換えると写真をベースとし、合成レタッチを加えた新しいイラストレーション的な写真表現を目指すのも良いかもしれない

それぞれのカテゴリーには新しい観点、今までにない視点の延長、タブーとされていたバランス感覚など、可能性やチャレンジに思い切ったセンスとアイデアを取り込むことが大きな力となるはずだ。

また、こうしてカテゴリーを整理してみると、募集ジャンルが多岐に渡っており、どのジャンルに応募すれば良いのか分からなくなってしまうクリエイターもいるのではないだろうか。あれこれ悩んでしまうのであれば、もっとも分かりやすい「従来のメディア」の「イラストレーション」、「写真」、「プリントコミュニケーション」でエントリーしてみるとよいのではないだろうか。

ADAAへの応募は、美術系の大学あるいは専門学校でなくても、正式に許可された高等教育機関に在籍していれば、まったく問題は無い。学生のみならず、教職員のエントリーも可能になっており、教職員の個人的な作品のエントリーはもちろん、授業に必要な自作教材などを考慮した「学校教育における革新」項目も全ての分野に用意されている。特定の学生向けの教材など、教育関係者ならではの作品がエントリー出来るのは嬉しいことだろう。全ての応募作品は、アドビ システムズの製品を50%以上使用して作成されている必要があるが、同社製品をまったく使わない創作活動、あるいは授業教材は現状ほとんどあり得ないので、この点は大きな問題ではないだろう。

審査に関しては、審査員に多数の欧米人が入っていることを鑑み、欧米人にとって新鮮に映る日本的なイメージ、あるいは表現に走ってみるのもひとつの作戦かもしれない。ひとつ忘れてならないのは、刻々と変化する世界、あるいは日本の状況を取り入れる、またはくみ取るといったディレクション作業が結果を大きく左右することだ。単に「自分にとって面白い」ではなく「万人にとって面白い」あるいは「今を伝える」メッセージ性のようなインパクトを与える作品が生き残るはずだ。

情報収集として、過去の受賞作品はサイトで確認することが出来るが、過去に受賞した作品と同じ方向性の作品が審査を通る確率は低い。過去の作品とは傾向が違うことが重要である。また審査員の作品に類似するといった事も好ましくない。これらはどのコンテストについても言えることだ。

そのほか、案内文では卒業制作作品のエントリーに触れている部分がある。ただし、ADAAは欧米の新学期前という時期がエントリーと重なっているため、日本の学生にとってはやや難しい時期という点がある。しかし、毎年開催されていることを考えれば1年先に的を絞るという作戦も可能だ。ただし。卒業制作作品をエントリーするためには4年生のはじめに作品を完成させていなくてはならないので、現実的ではない。むしろ自由作品あるいは1~3年次の作品で勝負する方が現実的だろう。

ADAAの趣旨は受賞式に参加することにあり、審査員から直接アドバイスを1年間にわたって得られることにある。受賞式で世界から集まる学生あるいは教職員の受賞者とのコミュニーションは何物にも代え難い体験となるだろう。まさにそれがこのコンテストの趣旨である。アドビ システムズというソフトウェアメーカーがソフトウェアを販売するのだけではなく、新しいクリエイターを発掘し、そして育て上げることにエネルギーを割いていることを評価したい。