東日本大震災が発生して以来、さまざまな企業が被災地・被災者救援を表明している。例えば、Googleが震災発生直後に被災地復興に向けた専用サイトを構築したことは記憶に新しい。クラウド連携を手がけるテラスカイは、セールスフォース・ドットコムとアマゾンジャパンのプログラムの下、復興活動に臨んだ。今回は、同社の代表取締役社長を務める佐藤秀哉氏に震災復興への取り組みについて話を聞いた。

テラスカイ 代表取締役社長 佐藤秀哉氏

被災地の自治体向けのシステムをSalesforce.comで構築

セールスフォース関連の復興支援の取り組みとしては2種類行われた。1つは、Salesforce.comのシステム構築とSalesforceのマーケットプレイス「AppExchange」でテラスカイが提供する画面作成ツール「SkyEditor」を無償で提供するというものだ。もう1つは、被災した団体を無償で支援するというものだ。同社は2つの自治体のシステム構築を手がけた。

仙台市のシステムは被災者の状況を把握するためのもので、家族構成などが記載された紙のアンケートのデータを格納する。同市のシステムにSalesforce.comが採用された理由について、同氏は次のように語る。

「『誰が生きているのか』、『どこの避難所にいるのか』といった、人の生死に関わる情報を入力するシステムですから、できるだけ早く構築する必要がありました。しかし、地震でシステムがまったくない状態です。そこで、迅速にシステムを構築できるクラウドが採用されました。さらに、データを入力する人が少しでも作業しやすいよう、アンケートと同じ画面を構築しました」

画面構築には、ドラッグ&ドロップで簡単にSalesforce.comの画面を設計できるツールが用いられた。ここでも、作業の短縮化が図られたわけだ。実際のところ、クラウドの採用によって、シ ステム構築にまつわる時間はどの程度短縮されたのだろうか。

「3月16日に仙台市からシステム構築を直接請け負ったNTTソルコさんから今回のプロジェクトに対応できるかを打診する連絡がありました。その翌日から作業がスタートし、22日にはパンチャーの人がデータを入力できる状態になりました」と、同氏は説明する。

システム構築に関わった仙台市、NTTソルコ、同社の三者は、セールスフォースが提供するコミュニケーションツール「Chatter」を用いて情報交換を行ったという。

広報を担当する田中有紀子氏は、「入力画面がアンケートとほぼ同じだったので、パンチャーの方に教育を行うことなく、すぐに使っていただけたと聞いています。この点も作業の効率化に有益だったと喜んでいただきました」と話す。

Amazon Web Servicesの復興支援にも参加

さらに、同社はアマゾンジャパンによるAmazon Web Servicesを活用した復興支援にも参加していた。「参加していた」と過去形なのは、同社が構築したシステムはすでに使われていないからだ。「目的が果たせたら簡単に『捨てる』ことができるのも、クラウドの持ち味」と佐藤氏は語る。

アマゾンでは、震災発生後、インターネット上に情報を掲載したくても、アクセスが殺到してネットワークが死んでしまうことを防ぐため、ミラーサイトの構築とスケールの自動化を行った。テラスカイはこうしたアマゾンの活動とは別に、被災地に公開する情報を掲載するためのシステムを構築した。

「避難所では、『どこで水や食料が配布されるか』、『誰がどこの避難所にいるか』といった情報が手書きの紙などで張り出されます。避難所に紙で張り出されただけでは、その場にいる人しかその情報を知ることができません。そこで、こうした情報をFAXやメールで収集してイメージのままAmazon Web Servicesの告知サイトに掲載される仕組みを作りました」(佐藤氏)

こうした仕組みは、同社のSkyOnDemandというオンデマンド連携サービスを用いて、自動化された。

ちなみに、セールスフォースよりもアマゾンのほうが動きが早かったという。「震災が起こった11日には、アマゾンによる組織化が始まり、当社もその夜に参加を表明しました。14日から実際の取り組みがスタートしました」と同氏。

「震災の被害に遭った企業は復興まで手が回らず、支援を受け入れる余裕がなかったのでは?」と聞いてみたところ、「復興支援の表明は早ければ早いほど効果があったようです」と同氏は教えてくれた。

実のところ、テラスカイではセールスフォースのプログラムに参加してNPO法人のSalesforce.comの導入を無償でサポートするなど、普段からCSRに取り組んでいる。今回は、社員の「誰かの役に立ちたい」という気持ちを強く感じ、それが実現したことがよかったと、同氏は振り返る。

今回のテラスカイの取り組みは、正に「迅速かつ簡単にシステムが作れるプラットフォーム」としてのクラウドの真価が発揮されたと言えよう。田中氏によると、仙台市の人々もシステム構築にかかった期間の短さに驚いていたという。日本復興はようやく一歩を踏み出したばかりで、今後もクラウドが役に立つ場面は少なくないはずだ。