多くのホスティング事業者が"クラウド"を前面に押し出してサービスの提供を行っている中で、さくらインターネットは、あくまでその根幹をなす「サーバを提供する」ことにこだわりたいという。同社が提供するサービスの詳細はWebサイトなどでご確認いただくとして、ここでは、同社が提供するサービスに共通する"考え方"をお伝えしよう。
インフラに求められる「本当に必要なもの」とは?
さくらインターネットの強みについて、同社営業部 リーダーの中澤道治氏は「"サーバ"を提供すること」に特化していることが挙げられると語る。
一見すると当たり前のように思えるその言葉の裏側には、抽象化することで本質を曖昧にしてしまう"クラウド"という言葉が安易に使われていることへの警鐘と、「技術者で知らない人はいない」と言い切る同社のサービスへの自信がある。
"クラウド"は、サーバの負荷状況に応じた柔軟かつ迅速なスケールアウト(スケールダウン)が可能なことや、「使った分だけ」利用料を払えばいいというコスト的なメリットといった側面が象徴的な要素として語られることが多い。 しかし中澤氏は、とりわけソーシャルアプリの世界において、「スケールアウトを使いこなすことに苦戦している方も多いのではないでしょうか」と指摘している。
「当初はアプリの絶対数が少なく、確かに『出せば当たる(ヒットする)』確率が高かった時期がありました。しかし、現在はすでにソーシャルアプリは飽和状態になりつつあり、リリースしたアプリが、スケールアウトが必要になるほど大ヒットするかどうかを予測することは、かなり難しくなってきています」
もちろん同社も"クラウド"のメリットをユーザーに提供するVPSサービスを展開しており、その内容は、豊富なOSの選択肢や最大で8GBまで対応するメモリ容量など、他社に負けないレベルのものとなっている。
しかし、同社があくまでユーザーに対して訴求したいのは「"素"のサーバを提供すること」(中澤氏)だという。
多くのエンジニアから高い評価を得ている理由
中澤氏によれば「エンジニアが本当に求めているのは"クラウド"ではなく"サーバ環境"」だという。"クラウド"の場合は、サービス提供事業者側で用意された環境に対して、多かれ少なかれ自分を合わせなければならないなど、慣れが必要になる。しかし"素"のサーバ環境が提供されるのであれば、そういったサービス毎の違いを気にしなくても良い。常に普遍なサーバ環境を利用すれば、結果として開発コストを低く抑えられるということだ。この違いはコンテンツ数やシステム規模が増加した際により大きくなっていくだろう。当然ながら、プロのエンジニアのユーザーが多い同社のサービスには、相応のパフォーマンスが要求されることになるが、彼らからは「期待通り(むしろそれ以上)の性能が出ている」との声が多いという。これは専用サーバに限った話ではなく、VPSでも同様とのことだ。
また中澤氏は、性能や機能とは異なる面でも同社のサービスがエンジニアから支持される理由があるという。それはチャレンジ精神旺盛なエンジニアを支援するという考え方が同社のサービスの根底にあるということだ。
「エンジニアが何か"新しいこと"にチャレンジしようとしている時、その土台となるサーバがしっかりしていることが重要です。その上でエンジニアに自由にできる環境を提供し、成長してもらいたいと考えています」(中澤氏)
実際に、同社が提供する"サーバ"は国内の大手SNS提供事業者などのスタートアップ期を支えてきた。
「シンプルで使いやすく、状況も把握しやすいサーバ環境を使いこなしていただくことで、自らのサービスのリソースが今後どの程度必要になり、そのためにスケールアップがどの程度必要になる、という推測もしやすくなります。エンジニアの方々のさらなるスキル向上に貢献できるということです」(中澤氏)
同社は「大規模に強い」ことも強みの1つとしているが、最近の例としては、美人時計が他社のVPSサービスから同社の専用サーバに乗り換えた例がある。
期待が高まる石狩データセンター
同社は現在、北海道石狩市に国内最大級とされるデータセンターを建設中だ。
このデータセンターは今秋の完成予定となっているが、ここでは「海外のデータセンターを利用するサービス並みのコストパフォーマンスを、国内のデータセンターで提供することが可能になる」(中澤氏)とのことだが、小誌のニュース記事でも圧倒的なPVを稼ぎ出すなど、ユーザーからの注目度も高い施設となっている。
首都圏では、交通至便な都心型のデータセンターが人気となっているが、物理的な距離の問題についても「通信技術の向上により、十分カバーできるレベルにある」(中澤氏)とのことだ。
将来的に「さくらのクラウド(!?)」なるサービスが登場した時には、この石狩データセンターから提供されることになるかもしれない。
なお、日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)は4月15日、国内向けIPv4アドレスの在庫が枯渇したことを正式に発表したが、同社はすでにIPv4枯渇対策として、同社の研究組織であるさくらインターネット研究所でIPv6接続テストサービス「さくらの6rd」(トライアル)を3月から開始している。
このサービスは同社の既存のIPv4サービスを利用しているユーザー向けのもの。サービスの利用に申し込みなどは不要で、ユーザー側でサーバOSやルータの設定を行うだけでいいそうだ。